幕間


 魔女の幻影は何を欺く。


 ○


「そのお友達って、タニアさんのことだよね」

 彼女は、今はもう異国の空の下にいる、友の名前を口にする。

「うん、そう。贈り物は、随分と気に入ってくれたみたいで」

「日本に来るきっかけって、それだったんだ」

「そうなんだよ」彼はさりげなく嘘をついた。「その時に、僕もちょっとだけ関わったから、後々タニアさんが来ちゃった時は驚いたのなんの」

「私は、本物の外国人の留学生だー、ってびっくりしてたかな」

「みんなびっくりするよね。何が一番びっくりするって、あのお付きの人達だけど」

「ねー。ボディガードって本当にいたんだね。それもあんなに」

「普通の高校だったら、びっくりで済まないだろうけれど」

 彼は肩をすくめる。この学校では、そのくらい珍しくも無い。

「ねぇねぇ」彼女は机に頬杖をつく。「そういえばタニアさんが来た日から、もう仲良くなってたよね。やっぱり贈り物関係?」

「えーと、うん、橋口さんが僕のことを話してたらしいんだ」彼は溜め息をつく。「あの時は橋口さんが通訳してくれないと、言ってる意味が何も解らなくて。何のために英語を勉強してきたのか、って、虚しくなったよ」

「ロシア語かドイツ語のほうが近いって言ってたよ。言葉が混ざってる、だったかな」

「タニアさんから聞いたの?」

「うん」

「僕なんかより、君の方が仲良くなってたよね、タニアさんと」

「女子はみんな仲良かったよ。色々な話を聞かせてもらったりして」

「毎度のことながら、女子ってほんと仲良しになるの早いよね。コツとかあるの?」

 そんなことを言いつつ、彼は椅子に座りなおし、腰の落ち着け先を探る。

「しかし。タニアさんが一番懐いたのは滝上さんだったね」

「小鳥ちゃん格好いいし、面倒見いいから」

「惚れられちゃったか」

「惚れられちゃったねー」

 二人して好き勝手に友人を評する。

「かくいう僕としても、滝上さんには橋口さんと同じぐらいお世話になったなぁ」

「私も」

「これでもうちょっと女の子らしい言葉遣いだったら」

「だねー。でも本当は怖くないよ。慣れると平気だし」

「そうだね。あと気を抜くと熱中しちゃうところとか」

「あー……。そうだねー……」

 二人して窓の外に視線を逸らし、現実逃避する。友人に対し酷い扱いだった。

「滝上さん、助けてもらったこともあれば、窮地に叩き込まれたこともあって……」

「あったっけ?」

「あった。国語の時間」

「あー……」

 それだけで通じてしまうのが物悲しい。

「思えばあれが一番初めだったかな。滝上さんが暴走しちゃったの」

 なんともいえない微妙な顔で、彼は再び語りをはじめる。

 二人にとってかけがえのない、偉大な友人の物語を。

「いつのことだっけ。とにかく眠い日だったのは覚えてる。それから――」


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