第28話 それぞれの日常2



 目を開くと見慣れた天井が私を見下していた。



 あれ?



 昨日はお父さんと一緒に家に帰って来てから、夕食を摂りながら家族で団欒していたはずだ。いつベットに入ったのだろうか、私の記憶は途中で途切れている。


 私は身体を起こし、寝室を後にした。隣の部屋では、もう既に食卓でお父さんとトール兄さんが朝食を摂っていた。



「おはよう、ユティーナ。昨日は食べながら寝てたけど大丈夫か?」


「ユティーナ食べながら寝るのは行儀が悪いぞ」



 お父さんとトール兄さんは昨晩の私について口口にしていた。


 どうやら私は夕食を食べながら寝てしまったらく、見兼ねたお父さんがベッドまで私を運んでくれたらしい。



 前もこんな事があった様な気がする……



 昨日の出来事に『デジャブ』を感じながらも私は自分の椅子に座った。私が朝食を食べ始めるとトール兄さんが鼻息を荒くして私に話かけてきた。



「今日から父さんにして貰うんだ!」


「何の特訓?」


「兵士になる特訓だよ」



 どうやらトール兄さんは昨日の話でお父さんが『兵士』である事を知って、自分もお父さんの手伝いができる様に『兵士』になる訓練も受けるらしい。



 正確には『騎士』だけどね。



 そんな事を考えながら、私はトール兄さんに疑問に思った事を訊ねてみた。



「農作業をしてから訓練もできるの?」


「出来るさ!」



 私の言葉をトール兄さんは鼻であしらった。そしてトール兄さんの言葉にお父さんはウムと頷いている。



 此の親にして此の子ありだね。



 私は自分には関係ないと話半分にトール兄さんに相槌を打って、その場を流した。




 朝食を終えた後、私はいつも通りにお父さんに村まで送って貰い、館までやって来た。


 昨日の出来事が嘘の様に村は活気に満ちていた。



「おはようございます」


「おはよう、ユティーナ」



 執務室のドアを開けるといつも通りマグリットは椅子に座り仕事をしていた。ふと私の机に視線を送ると、否応無しに羊皮紙が積み上げられいる。



 …………。



 マグリットと挨拶を交わすと私はそれ以上何も言わずに自分の椅子に座った。



「村長さん、『悪魔』について……」


「その話は机の上の『』が終わるか、3の刻になったらね」



 マグリットは私の言葉を最後まで聞かず、清々しい笑顔でそう切り捨てた。



 最早『仕事』なんだね……



 私はハアと溜息を吐いて、『仕事』に取り掛かった。




「姐さん、聞いて下さいよ〜、……」



 3の刻になり所作の練習を終えたサラが執務室にやって来た。いつも通りサラはデボラの不満を私に漏らしてくる。



「お嬢様が何度も同じ間違えをするからじゃないですか」



 サラの愚痴を聞いていたのか、デボラはお茶を淹れながらそう述べた。その言葉にサラはプーっと頬を膨らませて見せる。



「だって……」


「だってじゃありません。ユティーナを見習って下さい」



 そう言ってデボラは私に視線を移した。私は丁度デボラの淹れてくれた紅茶に口をつける所だった。二人のやり取りを全く気にしていなかった私は何事かと思ったが、ニコッと笑みを浮かべてその場を誤魔化した。



「お茶一つにしても、ユティーナはこれ程優雅に嗜まれているのですよ。此処まで出来れば私は文句はいいません」


「うっ……」



 相変わらずデボラの私への評価はかなり高い。サラはジーと私を見つめている。



「姐さんはどこで所作を覚えたんですか?」


「私は村長さんの真似をしているだけだよ?」



 私の言葉に、サラはハッとしたかの様にマグリットの方を向いた。マグリットは優雅に紅茶を嗜んでいる。サラは透かさずマグリットの真似をして紅茶を啜った。



「ユティーナ、昨日は家に帰って事情は説明出来たのかい?」



 マグリットは思い出した様に口を開いた。


 私がお父さんが上手く誤魔化したという事を伝えると、マグリットはホッとした様子で紅茶を啜った。



「そう言えば、お父さんは『村の兵士』って事になっているんですか?」


「ああ、建前上そういう事になっているが何かあったのかい?」



 私の問いにマグリットは猜疑心に満ちた表情で応えた。



「あ、なら大丈夫です」



 私はマグリットの言葉に納得して、この話題を終わらせた。しかしマグリットは慌てた様子で話を元に戻した。



「何か起きてからじゃ遅いから、ちゃんと理由を説明してくれないかい?」



 どうやらマグリットは私が何かしらの問題を抱えていると思ったらしい。マグリットを納得させる為に、私はトール兄さんがお父さんから訓練を受けるという旨を伝えた。


 大した事では無いと知ったマグリットは落ち着きを取り戻し、長椅子に身体を預けた。



「そう言った事はトゥレイユに一任しているから問題無いよ」



 マグリットはそう言うと紅茶を飲み干し、執務机に戻って行った。


 私も後に続く様にティーカップを置いた。



 …………。



 隣から視線を感じ、私はサラの方を向いた。



「姐さん、さっきの話を詳しく教えて下さい!」



 そこには瞳を輝かせたサラが私に捻じ寄って来ていた。


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