第26話 王国の現状



 王国が成立してから現在まで様々な災害や領地間の争いがあった様だ。


 飢餓、疫病、そして各領地間での争い———


 だが、決して王国が危機に陥る事はなかった。


 それは代々『能力』を持つ国王が国を治めていたからである…




 現在の王国が抱えている問題は、現在の『国王』によるところが大きいらしい。


 現国王は『予知能力』を持たない。故に王国の危機を予知し事前の準備を行う事が現在の王国には不可能なのである。


 未来への不安は、国王への不満となり、現国王の求心力は徐々に低下しつつあった様だ。


 そういった状況の中で現国王は王国を統治する為に尽力したらしい。その結果、一時は低迷していた国王の求心力は前国王と変わらないまで回復した。




 そんな中『あの事件』が国王の求心力を地の底まで落とした。その原因となったのが先日の会議で士官が情報を集めていた『流星』らしい。



「正確には流星じゃないみたいだけどね」



 マグリットはそう言うと、デボラに紅茶の御代わりを頼んだ。



「じゃあ何だったんですか?」



 私がそう訊ねると、マグリットは困った様子で首を振った。どうやら今も『流星』については調査を行っているらしい。




 なぜ『流星』が『事件』とまで言われているかというと、その流星は王都であるコリントンの上空を通過し、海に落下したらしい。



 それって『』なんじゃ……



 私は言葉を失った。もしも、大陸に衝突していれば大惨事どころでは済まない。


 そしてマグリットはそのまま話を続けた。



「今回の『流星』の一件で王都コリントン領の西部にある海岸線付近にある村や町が海に呑まれて消滅した。もし国王様が『予知能力』を持っていたとすれば、住民を避難させる事が出来たかもしれないと国王の責任問題になっている。そして一部の人間が国王様を『偽りの王』として、王の座から引きずり降ろそうとしている」


「じゃあ王様が替わればいいんじゃないんですか?」



 私がそう述べると、マグリットは深い溜息をついた後、口を開いた。



「そうもいかないんだ。今の国王様の穏健を受けている者は多く、国王様を守ろうと必死になって動いているんだ。そしてエイペスクはそれに巻き込まれているんだよ」



 マグリットはうんざりした様子で紅茶を啜った。すると暫く口を挟まず、話を聞いていたお父さんが見兼ねて口を開いた。



「彼奴ら曰く、今回の事件は『エイペスクが玉座の転覆を図った』事になっているらしい」



 お父さんは呆れた様子で肩を竦めた。マグリットは紅茶を啜り一息つくと再び説明を始めた。




 エイペスクは今まで各領土の中でも中立の立場を頑なに示してきた。


 それ故に、領地で大きな争いごとは無く、他の領地同士の争いに巻き込まれる事は無かった様だ。しかし今回の事件で王国内は、現国王支持派の『保守派』と新たな王を望む『革新派』に二分しているらしい。


 更に今回の『流星』は昼間にエイペスクの方角から山を越えてやって来たとの証言が多く。保守派からエイペスクは自分たちの企てではない事を示せ、と保守派への合流を促され。革新派からは同胞として熱烈な歓迎を受けているらしい。


 エイペスクとしては中立の立場を崩したくない為、必死になって原因を調査しているという事らしい。



「あのー、ちょっといいですか?」



 私はマグリットが話している途中で、手を上げて話を遮った。



「その『流星』って昼間に落ちてきたんですか?」


「ああ、そうだが?」



 マグリットは片眉を上げて応えた。



「それっていつでしたっけ?」


「会議の日の……ちょうど7日前だったかな?」



 会議の日の7日前……



 私は顎に手を当てて、その日の事を思い出してみる。



「あッ!!」



 突然の大声に、その場にいた全員が驚いて私の方を向いた。



「どうしたユティーナ」


「姐さんどうかしました?」


「何か知っているのかい?」



 皆それぞれが私に声を掛けた。


 私は痞えていた物が取れた様な清清しい気分で口を開いた。



「私、それ知っています。『赤い流れ星』ですよね?」



 私の言葉に『またお前か』と言わんばかりに、マグリットは頭を抱え、お父さんは頭をガシガシと掻いていた。


 サラだけが私の言葉に興味津々といった様子で訊ねてきた。



「へぇ〜『赤い流れ星』なんて見た事ないですよ。流石、姐さんですね」


「誰かに言おうと思ってたんだけど、ずっと忘れてたんだ〜やっぱり赤色の流星って珍しいよね?」



 私とサラが呑気にお喋りをしているとマグリットが私たちの会話を遮った。



「ユティーナ。詳しい話を聞かしてくれるかい?」



 マグリットは姿勢を正して私に向き合った。私がお父さんに視線を送るとお父さんも大きく頷いた。私は姿勢を戻し、マグリットに向かって口を開いた。



「私が野原で花摘みをしていたら、突然空に『赤い流星』が現れて、あっと言う間に山の向こうに流れて行きました。あの時はまさかあれが『隕石』だなんて思いませんでしたよ。帰ったら昼間に見える赤い流れ星についてお父さんに聞こうと思ってたくらいですからね」


「……『インセキ』?それは何だ」



 マグリットは私の言葉を目を丸くして訊ねてきた。



「えっと……流れ星が地上に落ちてきた時の名前? ですかね」


「そうか、わかった。じゃあ何故『隕石』についてトゥレイユに言わなかった」



 マグリットは私を責めるように述べた。すると話を聞いていたお父さんが私よりも先に口を開いた。



「マグリット、ユティーナを責めないでやってくれ。その日、ユティーナは倒れて、三日間気を失っていたんだ」


「そうか……すまなかったな」



 マグリットはそう言うとこめかみに掌を当てた。暫くすると再びマグリットは口を開いた。



「そろそろ5の刻になる。今日はもうここまでにしておこう」


「まだ『悪魔』について教えて貰ってませんよ」



 マグリットの言葉に私は頬を膨らませて見せたが、どうせ明日も会うのだからと相手にしてもらえなかった。



「そうだトゥレイユ。カナー達は帰ったのかい?」


「ああ、先に帰らせた」



 お父さんがそう言うとマグリットは少し残念そうに口を開いた。



「もし良かったら夕食を一緒にどうかと思ったのだが……」



 マグリットはそう言いながら、私とサラに視線を送った。しかしお父さんは頑なに今日は帰ると行って私を抱き上げた。



「もう少し落ち着いたら、また招待してくれ。今日はカナーに今日の事を説明しなくちゃならんからな」



 お父さんはそう言って、私たちは執務室を後にした。


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