第25話 それぞれの能力



 先程マグリットが避難指示を解除したからだろう、館の中は静けさを取り戻した様子だった。村人たちの対応に追われた使用人達も一段落したらしく、執務室にデボラが入ってきて紅茶を淹れてくれた。


 マグリットは落ち着いた様子で紅茶を啜っていた。



「僕とトゥレイユは能力者だ」



 マグリットの言葉に私とサラは顔を見合わせ首を傾げた。



「ユティーナも先に頭に直接響く僕の声を聞いただろ?」


「あれですか」



 マグリットが言っているのは先の『避難指示解除の連絡』の事である。



「僕の能力は『精神感応テレパス』だ。送信限定だけどね」


「じゃあウチが兄貴達と会話できるのも能力を持っているからですか?」



 サラが興味深そうにマグリットに質問する。



「そうだな。サラの能力は『動物感応アニマルトーキング』と思うよ」


「と思う? ……って事はまだわからないんですか?」



 マグリットの言葉に私が訊ねる。



「ああ、検査しないと正確な能力はわからないんだ。もしかしたら別の能力かもしれないからね。今は動物達と話しているから仮に『動物感応』と言っているのさ」



 どうやら他にも『能力』はあるらしい。私はマグリットの話が終わるとお父さんの方に視線を送った。お父さんはマグリットが説明している間「我関せず」といった具合に一人優雅に紅茶を啜っていた。


 私の視線に気がついたのだろう『コホン』と咳払いをした後にお父さんは口を開いた。



「俺の能力は『借力インパワー』だ。身体能力を強化できる。能力を使えば家から一瞬で村まで行けるし、其の気になれば街まで一瞬で行ける」



 通りで動物達から恐れられている訳だ。私が目を丸くして驚くと、お父さんは鼻を高くしていた。



「じゃあテュール兄さんの『』も能力なの?」


「ああ」



 私の質問にお父さんは答えてくれた。しかし詳しい事は本当に見ていなかった様でマグリットが説明してくれた。



「テュールの能力は『隠密スニーク』で他人に自分を感知されない能力だと思うよ。これも検査しないとわからないけどね」



 成る程、だからあの時テュール兄さんは突然消えて、突如現れた様に見えたのか。



私が一人で納得していると、サラが興味深そうに話題に入ってきた。



「じゃあ姐さんの能力は何なんですか?」



 サラは意気揚々を二人に質問を投げかけた。私も自分の能力には興味があるので、二人の反応を待っていた。しかし、私達の期待と裏腹に大人達は黙ってしまった。



 えー……そこで黙らないでよ……



 暫くの沈黙の後、マグリットがゆっくりと口を開いた。



「わからないんだ…」


「え?」



 予想外の返答に私は困惑した。そして更にマグリットは続けた。



「いくつか候補があるが、一番有力なのが『思考強化インテリジェンス』かな。でも確かではないんだ」



 マグリット曰く、能力者は親と同じ能力系統になるらしい。


 マグリットとサラは『感応能力系』、お父さんとテュール兄さんは『身体能力系』といった具合に親子であれば能力は類似するらしい。


 ただし稀に『先祖還り』と言って、親とは違った能力が宿るらしい。


 通常で考えれば身体能力系である『思考強化』が私の能力であると思われるが、『地滑り』などの知識やそれ以外の所から考えると『思考強化』とは別の能力の可能性があるらしい。


 なので、私の能力はわからないらしい。



「じゃあ今すぐ検査しましょうよ」


「それは無理なんだ。来年の収穫祭まで待ってもらう事になるかな」



 私の提案をマグリットは直様却下した。そしてその理由を教えてくれた。


 まず、平民は能力を授かる事は殆どないらしい。大体は貴族の子供が授かる事が多く、その理由は貴族の殆どは能力者で能力者同士の子供は高確率で能力を授かる、故に能力者の殆どは貴族という事になる。


 だが貴族同士の子供だから絶対に能力を授かる訳ではないらしい。そして片親が能力者でなかった場合、子供には能力は宿らないらしい。



「え、でも私とサラには能力が宿っているんでしょ?」


「ああ」



 そういったマグリットは更に話を続けた。


 『先祖還り』によって平民の中でも能力を授かる子供は稀にいるらしいが、能力が覚醒する時に能力が暴走し死亡する場合や失踪してしまうらしい。


 貴族の場合は初めから能力が授かる事を前提で対応するので、子供が能力の暴走で死亡する事は殆ど無いらしい。


 なので、私たちが能力者だと考えていなかったらしい。


 頑なに『能力』に関しての情報を伏せていたのは、マグリット達の素性を隠す為と不慮の事故を防ぐ為だった様だ。



 通常、能力者は貴族である事がである。



 それ故に能力の検査は貴族の子供が7歳になった時に住民登録と一緒に貴族街で行われるらしい。



「だから来年の収穫祭の時まで待たないといけないのか」


「いや違う。収穫祭で能力の検査は行われない」


「え?」



 マグリットの言葉に私は首を傾げた。



「平民から能力者が出る事はない。だから収穫祭で能力検査が行われる事はない」


「じゃあ貴族街で検査すれば……」


「それこそ無理だよ、君は農夫の娘だ。サラも村長の娘でしかない」



 マグリットはそう言うとニヤリと笑みを浮かべた。



 ああ、何か企んでいる時の顔だ。



「7歳になって『騎士見習い』や『士官見習い』になれば能力検査を受けられる」


「私達に『騎士』か『士官』なれと言うんですね」



 私はハアっと溜息を漏らして呟いた。サラはまだ現状を把握できていない様だ、リュウが『ピヨピヨ』と説明をしている。


 そしてマグリットは話を続けた。



「ユティーナは知っていると思うが、今エイペスク領に留まらず、王国中で騎士と士官が不足している。エイペスクとしては一人でも多くの能力者が必要なのだ」


「だからテュール兄さんは合格したのか……」


「そうだ」



 私の言葉にお父さんが頷いた。



「『あの事件』以降、王国中で色々な問題が発生していて、情報網がまともに機能していないんだ。だからユティーナとサラには『騎士見習い』か『士官見習い』としてこの村で僕たちの手伝いをして欲しいんだ」


「でも私達はまだ7歳になってませんよ?」


「それまでは『騎士見習い』か『士官見習い』になれるように今まで通りここで勉強して貰う。そして何かあればすぐに僕らに教えてくれればいいから」



 マグリットの説明にサラはパァっと顔を明るくして喜んだ。



「ウチがお父様の役に立てる時が来たんですね!」



 そう言ってサラは燥いでいる。一方で私は肩を落としていた。


 結局のところ、私の能力はわからないし、今まで『勉強』と言ってマグリットの仕事を手伝っていたのを親公認で『』として行わないといけないのだ、私としては憂鬱である。


 私の様子を見ていたマグリットはニヤニヤと私に笑みを送っている。



「ユティーナ、『士官見習い』になれば君の知らない事を好きに調べれる様になるし、僕も君の質問に何でも答えれる様になるよ」


「ぜひやります!」



 マグリットの言葉に私は頬を染めて興奮気味に答えた。


 簡単に丸め込まれたような気がするが、今まで教えてくれなかった事を教えてくれるのだ、些細な事は良しとしよう。



「じゃあ村長さん。早速ですが先に言っていた『あの事件』とお父さんが『悪魔』と言っていた『宙に浮いた人』について教えて下さい!」



 私の言葉にお父さんは「我関せず」といった具合で紅茶を啜っていた。一方でマグリットは頭を抱えていた。


 

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