第24話 事情聴取



 マグリットは腕を組みながら真っ直ぐに私達を見ていた。


 その表情は私達にいつも見せる陽気な表情ではない、しかし村長として威厳を見せる時の表情でもない顔だった。



「サラが『村の人を全員避難させろ』と言った事にも驚いたが、ユティーナから『応援』の要請を受けるとは思わなかった」



 そう言うとマグリットは私達を交互に見た。するとマグリットは私が怪我をしている事に気がついた様で、デボラを呼んで傷の手当てをしてくれた。


 私は傷の手当てを受けながらマグリットの話を聞いた。



「唐突にサラがやって来て、『村に危険が迫っている』とだけ言うから何事かと思ったよ。でも前回の事もあるから、村全体に緊急避難の連絡をしたんだ」



 そう前回『地滑り』の際に私がマグリットに地滑りの事を説明する前、サラはマグリットに『危険』がある事を知らせていたのだ。しかし、その時はサラの『構って貰う為の口実』としてマグリットはその言葉を流していたのだ。


 だが今回はサラの言葉を信用してくれたらしい。



「サラ、何故村の『危険』がわかるんだい?」


「それは兄貴達が教えてくれるからだよ」



 そう言うとサラは立ち上がり執務室の窓際まで歩いて行った。マグリットはサラの動向をゆっくり見守っている。そしてサラが窓を開けるとリュウがサラの右肩に止まった。



「お父様、紹介します。私ののリュウです」


「なっ…」


「ピヨ、ピヨピヨ」



 サラは小鳥であるリュウを揚揚とマグリットに紹介する。一方のマグリットは突然の出来事に目を白黒させている。


 サラはリュウの言葉をマグリットに伝える。



「『お初になります、旦那。俺はネズミワシのリュウです』っと言ってます」



 その言葉は明らかにサラの言葉でない事は確かだった。しかしマグリットはまだ信じられない様だった。するとサラはマグリットの肩に手を置き、リュウは『ピヨピヨ』と鳴いた。


 きっと今、マグリットはリュウの『声』を聴いているに違いない。信じられないものを見ている様な目でリュウを見つめると、マグリットは口をパクパクさせている。



「事情はわかった。その事は謝らなくても大丈夫だ。寧ろ私が構って遣れない分、サラと一緒に過ごしてくれた様だな、感謝しているよ」


「ピィ」



 どうやらマグリットとリュウとの終わった様だ、サラはもう一度長椅子に腰を降ろした。サラが座ったことを確認するとマグリットは私に視線を移した。



「サラが何故村の危険を察知出来たのかはわかった。しかしユティーナ、君は何故地滑りが起こる事がわかったり、今回も僕に応援を要請する事が出来たのかい?」


「その話をする前に、お父さんの事について質問してもいいですか?」



 私はこの話をする前に『守護者』について話をしなければならないと思い、マグリットに提案した。多分お父さんも私が気付いている事を察したのだろう、でなければあの場で『応援要請をしてくれ』なんて私に言う筈がない。


 私の言葉にまたマグリットは黙ってしまった。



「お父さんは『』ですよね」



 私は率直に述べた。そして更に続けた。



「そして村長さんは『』ですね」



 私の言葉にマグリットは目を見開いて驚いていた。サラは意味を理解していないのだろう、首を傾げながら私とマグリットを交互に見ている。



「っと言っても村長さんが『士官』って言うのは推測ですけどね」


「じゃあトゥレイユが騎士って言う事は推測じゃないのか」


「はい」



 私が迷いなくそう述べると、マグリットは私に訊ねた。



「何故そう言い切れる」


「まず、先日の会議でのトリスタンさんとお父さんのやり取りからです。その場では昔の友人だと思っていました。でもその後、家の裏にある倉庫で『剣』を見つけたんです。そして昨日、館の裏にある『石柱』でお父さんがその『剣』を持って現れました。昨日は村長さんに『拾った』と言って渡していましたが、今日倉庫を調べたら『剣』が無くなっていたんです。そこで私は確信しました」



 私の説明にマグリットは頭を抱えている。更に私は続けた。



「その後、家で『エイペスクの変遷』を読み返していたんです。じゃあ『騎士』と『士官』についての記述が載っていました。それを読んで村長さんは『士官』ではないかと推測しました。記述に載っている情報収集や伝達などの役割が村長さんがしている事と似ていたので……」


「わかった。もういい」



 私がそこまで述べると、マグリットは話を遮った。そしてマグリットは私と向き合うように一度姿勢を正した。



「君は何者なんだい?」



 以前も問われた質問をマグリットは私に再度訊ねた。



「私は、ユティーナです」



 私はそう答えるしかなかった。寧ろマグリットは私を何だと思っているのだろうか?



「質問を変えよう。君は何を知っている?」


「何も知らないです。だから村長さんに教えて貰ったり、調べたりしてるんですが……」



 マグリットの問いに私は淡々と答えた。そこに嘘偽りはない。マグリットはウーンと唸りながら腕を組んだ。




 暫くするとマグリットは何か気がついた様子で顔を上げた。



「終わった様だ」



 そう言うとマグリットはこめかみに掌を当てた。



『避難指示を解除します。帰宅して頂いて大丈夫です。もうすぐ雨になりますので、帰宅が困難な方はこの館で一晩を過ごしても構いません。希望する方は使用人にお伝えください』



 突然マグリットの声が頭の中に響いてきた。まるでサラを通してリュウの声を聞いている時と同じである。声が聞こえなくなると、マグリットはドアの方へ視線を送った。



「そろそろかな」



 マグリットがそう言うと、ドアがノックされお父さんが執務室に入ってきた。そして、その後ろから何人か騎士が続いた。マグリットは立ち上がり、執務机の椅子に座り直した。


 騎士達は私達が居ることをマグリットに伝えたが、マグリットは『いいんだ』と述べるとお父さんに視線を送った。


 お父さんを先頭に騎士達が執務机に向かって横二列になって整列している。



「では報告を訊こう」



 マグリットがそう言うとお父さんが一歩前に出て口を開いた。



「チェド村南西にて、『』と遭遇。能力は『念力サイコキネシス』であり、応援を要請。これにより『悪魔』の無力化に成功し、拘束致しました」


「ご苦労、それでは帰還せよ。トゥレイユはここに残れ」


「はッ」



 一連のやり取りの間、私とサラは黙って待っていた。騎士達が部屋から出て行くと、マグリットとお父さんは戻ってきて長椅子に座った。



「ユティーナ、無事にマグリットに連絡してくれたんだな。ありがとう」



 お父さんは優しい口調で私に声を掛けてくれた。よく見るとお父さんの身体は全身傷だらけである。


 私はお父さんの心配をしつつ、途中からサラの友達のローが館まで送ってくれた事を伝えると、マグリットが目を丸くしてサラを見つめていた。



「君たちには話しておかなければいけない様だ」



 マグリットは呟く様にそう言うと更に続けた。



「君たちにはが宿っている」



 マグリットは私とサラを真っ直ぐに見つめながらそう述べた。

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