第20話 石柱の守護者



 私の目の前には守護者と呼ばれる『何か』が立ちはだかっていた。突如現れた、『何か』にサラは怯え私の腕を掴んだ。


 その『何か』はそのシルエットから人である事は伺えたが、『何か』は逆光を背に受け私からは黒黒とした人影しかわからない。


 バサバサと羽音を立ててリュウはサラの肩に止まった。そして直様『ピィ』と鳴いた。



『彼奴が守護者だ』



 サラに直接触れている私は、リュウの言葉が直接頭に響いて来た。徐々に近づいて来る『何か』に私は違和感を覚えた。



『気をつけろ』



 リュウは私とサラにそう告げる。サラは私の腕をギュッと強く掴む。しかし、私は何を気をつけるのか理解できなかった。



 だって、そこに立っていたのは……




「ユティーナ? どうしてこんな所にいるんだい?」



「お父さん!」



 そう、そこに居たのは私のお父さんなのだ。しかしリュウは続けた。



『彼奴はこの『石柱』とこの村を守る守護者だ、気をつけろ。守護者と接触して生きていた人間を俺は聞いた事がない』



 リュウは何を言ってるんだろう? お父さんがそんな事する訳ない。私はギッとリュウを睨んだ。



「仕事が早く終わったから、館に迎えに行ったんだが、ユティーナとサラは森に行ったって言うから探していたんだぞ」



 お父さんの言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。やっぱりお父さんがここに居るのは、只の偶然なんだ。



『ユティーナ、彼奴の腰の物を見てみろ』



 リュウの言葉に思わず私は息を飲んだ。



 え……?



 お父さんはサラに自分がユティーナの父親である事を説明し、怖がる必要はないっと言う事を説明している様だった。しかし、私はお父さんの腰に据えられている物に目が釘付けで、何を言ってるかなんて聞き取れない。



 あの『剣』だ……



 お父さんの腰には先日家の裏の倉庫で見つけた『剣』が腰に差されていた。



『……ィーナ、ティーナ……ユティーナ!』


「え、何?」


「何、ボーっとしているんだ?」


「ん、何でもない……」



 突然の事に私の返事は歯切れが悪い物になってしまった。私の挙動の不自然さとリュウの言葉からサラは未だに警戒をしている。



『そういえば、彼奴はお前の親父さんだったな……だが気をつけ……』



「なんでネズミワシがここにいるんだ?」



 サラの肩に乗っていたリュウをお父さんは乱暴に掴んだ。それは流石猟師と言いたい手際だった。



「やめろ!」



 サラはお父さんに怒鳴った。お父さんもサラの態度が変わった事に目を白黒させて驚いていた。確かにサラの見た目と言動にギャップはあるがそこまで驚かなくてもいいだろう。



「お父さん、リュウはサラのお友達なの。だから乱暴に扱わないで」


「ああ、そうだったのか、すまんかったな」



 私がそう言うとお父さんはリュウを空に放った。リュウは頭上を旋回しながら『ピヨピヨ』と鳴いて、何処かに行ってしまった。


 その鳴き声にサラは頷いていた。



「ところでユティーナ、何でこんな所にいるんだ? 勉強はどうした?」


「村長さんにお客さんが来たから、今日は森で探検してたの」



 私はお父さんに説明するとサラも『うんうん』と頷いている。



「そうだったのか、この辺は『』が多いから余り近づくんじゃない」


「はい……」



 お父さんはいつもの心配そうな表情で私たちを見つめている。そして、さあ帰るぞとお父さんは先を歩き始めた。私たちも後を追う様に帰路に就いた。しかし、私は先のリュウの言葉が気がかりになっていた。



 何に気をつけろって言うんだろ……?



 そこに居るのはいつものお父さんである、ただいつもと違う点は『剣』を腰に差しているという事だけだ。


 私は歩みを止め、意を決してお父さんに訊ねた。



「お父さん、その……腰にある物って何?」



 お父さんが歩みを止める。


 振り返る事のないお父さんの表情を私たちは確認する事ができない。



 ……………。



「さっき拾ったんだ……」



 一瞬の沈黙の後に背を向けたままのお父さんがそう述べた。まるでそれは、とって付けた様な、明から様な『嘘』だった。



「……だから、館に着いたらマグリットに渡さなきゃならん。少し待っていてくれるか?」


「うん。それは大丈夫だよ」



 私の言葉にお父さんは振り返った。そこには照れくさそうに頬を染めるお父さんがいた。



「『剣』なんて農夫の俺は持った事がないから、つい腰に差しちまった」



 開き直った様にお父さんは『剣』の話題をし始めた。


 以前からトリスタンが『剣』を持っていて、かっこいいと思っていた事や自分に似合っているか? などと様々な事をお父さんは話していた。




 館に帰った私たちは執務室に向かった。来客との話はもう済んでいる様で、マグリットは執務机で仕事をしていた。



「どうしたんだトゥレイユ?」


「ああ、仕事が早く終わったから、今日は早めにユティーナを迎えに来たんだが、居なくてな。森に行ったっていうから探しに行ったら『これ』を『拾った』からお前に届けようと思って寄ったんだ」



 そう言って『剣』を差しだしたお父さんにマグリットは目を見開いた。マグリットは一瞬、お父さんと目線を合わした。



「そうか、では私が『預かって』おく」


「よろしく頼む」



 そして、お父さんと私は館を後にした。帰り道、私はお父さんの背中で寝たふりをしながら、様々な事を考えていた。



 『石柱』、『賢者の守り石』、『守護者』……



 今日、リュウから聞いた事はあの『石柱』に関する事であり、あれは『遺物』だった。



 賢者っという事は『和の賢者』に関する事なのかな……じゃあ今の資料を読み進めれば何かわかるのかな?



 私はぐるぐると思考を巡らして、考えた。


 その結果、翌日私は熱を出した。


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