第19話 周辺探索2
私の日常は相も変わらず、マグリットの仕事の手伝いをしている。少し変わった事といえば、朝起きると玄関に果物や木の実、山菜、薬草などが日替わりで置かれているという事と、3の刻になると所作の練習を終えたサラが執務室にやってくる事だ。
なので、4の刻だったお茶の時間は3の刻になった。
「姐さん、聞いてくださいよ〜……」
サラはいつもデボラの愚痴を溢している。私は紅茶を啜りながら、その愚痴を聞くのが日課になってきた。そう言えば、私はサラに『姐さん』と呼ばれる事に慣れたが、どうもマグリットはその呼び方に慣れないらしい。
「サラ、ユティーナは同い年なのだから『姐さん』と呼ぶのは止めなさい」
「いくらお父様の言いつけでも、これだけは譲れません」
サラの言葉にマグリットは頭を抱えている。先日までの事を思えば、大進歩な訳なのだから少しくらいは大目に見てもいいんじゃないだろうか?
お茶の時間が終わると私は引き続きマグリットの手伝いをする。サラは準備されている机で、文字と計算の練習をする。
暫くの間、勉強をしていたサラは石筆を動かす手を止めて、顔を上げた。
「……姐さんはやっぱり凄いです。お父様の仕事を手伝えるなんて……」
サラの集中力が切れたのだろうと、私も手を止めて相槌を打つ。
「私もできればただ文字の練習や計算をしたいんだけどね……」
そう言って、私はマグリットに視線を流す。
「ユティーナは優秀過ぎるから、問題を作る方が逆に手間だ。なら実践で覚えさせる方が効率がいい」
マグリットはそう言うとニヤニヤと笑みを浮かべている。
「サラも少しやってみるか?」
「はい!」
あ、愛娘にも仕事を手伝わせるつもりか……
そう言う事かと、私はマグリットを少し睨んだ。しかしその目論見はすぐに崩れた。
「あ〜……わかんない。ウチじゃ全く読めないし、数字の桁が大きすぎて計算できない!」
「だろうね……」
私は再度マグリットに視線を送った、『まあそうか』と言った表情でマグリットは口を開いた。
「サラはゆっくり文字を覚えていけばいいからね」
「お父様すいません。早くお手伝いできる様に頑張ります!」
「ありがとう。サラ」
微笑ましい親子の図の様に見えるが、マグリットはただ仕事を減らしたいだけだろう。そう思い、私は溜息を吐いた。と同時に、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。マグリット様、お客様がお見えです」
ノックをした後、デボラが来客の知らせをマグリットに伝えた。マグリットは私とサラに視線を送った。
「すまないが、今日はここまでだ」
「わかりました。また明日来ますね」
「うん。姐さんと遊んで来る」
私たちはマグリットにそう言うと執務室を後にした。
マグリットは村長なので、時折来客がある。その際、マグリットは応接室に向かうので執務室に大人が居なくなる。なので、来客がある日は来客が来た時点で勉強は終了という事になっている。
5の刻まで私の迎えは来ないので、それまで私はサラと一緒に過ごしているのだ。
「姐さん、今日はどうします? 5の刻まで結構時間がありますよ?」
「じゃあ今日は森に行くのはどうかな?」
いつもはサラの部屋で紅茶を啜りながらお喋りしたりしているのだが、今日はまだ日が高いので森に行く事にした。
「ピヨピヨ……」
館の裏口から外に出ると、リュウがサラの肩に止まり、何やら鳴いていた。
「『久しぶりだな、ユティーナ』っと言っています」
「ええ、久しぶりねリュウ。そうそう、貴方に聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
サラがリュウの言葉を私に伝えてくれて、私はリュウに訊ねてみた。リュウは『ピィ?』と首を傾げながら鳴いた。
「朝、家の玄関に果物とか置いていってるでしょ?」
私の言葉にリュウは慌てながら『ピヨピヨ、ピ?』と鳴いた。
「『あれは詫びのつもりだから気にせず受け取ってくれ、もしかして迷惑だったか?』っと……」
「そんな事ないよ? 有り難く食べさせて貰ってる」
『よかった』と言わんばかりに『ピィ』とリュウは鳴いた。
正直に言って、トール兄さんがお父さんの手伝いをし始めてから森へ採取に行く人がいないので、食卓が少し寂しかったのだ。
リュウが毎朝何かを届けてくれるので、最近の食卓は少し豪華である。
「そうだ、リュウ。この辺りで変わった石や建物はない?私はそう言うものを調べてるんだけど……」
「探検ですね! 姐さんと一緒に行けるなんて楽しみです!」
私の言葉にサラは燥いでいる。やっぱり勉強よりも外で遊ぶ方が楽しい様だ。リュウは暫く黙っていたが『ピヨピヨ』と鳴くと翼を広げ羽ばたいた。
「『案内するからついて来い』っと言っています」
リュウは私たちの頭上を旋回していたが、私たちが歩き始めると、『こっちだ』と言わんばかりに先を飛んでいき、近くの枝に止まって待ってくれている。
暫くリュウの先導で森の中を歩いていると、私はある事に気づく。
「ねえリュウ? 動物と出くわさないんだけどなんで?」
私の言葉を聞いたリュウはサラの肩に止まり『ピヨピヨ』と説明する様に鳴いた。
「『ユティーナが来るから、出てこない様に言ってある』っと言っています」
「別にとって食べる訳じゃないから気にしなくていいのに……」
「ウチは兄貴に紹介して貰ったから、森の皆とは仲良しだよ」
「『彼奴の娘って事で怖がっている連中もいるからな、許してやってくれ』」
ああそう言う事か、凄腕の猟師の娘じゃ怖がられて当たり前か……
そんな話をしながら歩いていると、リュウが『ピィ』と鳴いて飛んで行った。
「着いたそうです」
サラもそう言ってリュウ追って、先に行ってしまった。
ちょっと、私は足が遅いんだからもうちょっと配慮してよ……
私は心の中で愚痴を溢しながら、後を追いかけた。すると、森を抜けた様に突然辺りが明るくなった。到着した場所では木々が辺りを避ける様に生えており、背の低い草や花が綺麗に咲いている。
そして、その中央には『大きな石』とは違い『石柱』としてはっきりわかる『遺物』がそこにあった。リュウはその『石柱』の天辺に止まり、『ピヨピヨ』と鳴いていた。
「『これは賢者が建てた守りの石らしい』」
「え?」
言われてみれば、石柱には何らかの文字が彫られており、これが何かしらの役割を果たしている事がわかる。更にリュウは続けて『ピヨピヨ』と鳴いた。
その鳴き声にサラは一瞬、戸惑いを見せた。
「どうしたのサラ?」
「『ここに来ると
サラの言葉を遮って、突然、森の中から『何か』が飛び出してきた。
え、そういう事は先に言ってよ……
私は不安に駆られながらも、森から飛び出して来たその『何か』と対峙するような形になった。
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