第3話 巫女は古代の人工知能(AI)?(ラスト・シャーマンより)

私がTwitter上で親しく交流させていただいている方で、高橋御山人さんという方がいらっしゃいます。

この方は、元神主の日本神話研究家で、特に長野県鬼無里地域に伝承される「紅葉伝説」について、ライフワークとして探求されておられます。

ここで、ピンとこられた方もいらっしゃるかと思いますが、私のPNはこの地名からお借りしたもので、高橋さんがツイッター上で私のアカウント名を目にされたことをきっかけに、交流させていただくことになりました。

高橋さんには、日頃から拙作の宣伝をしていただくなど、大変お世話になっていて、以前から何かお礼ができないかなと思っていました。



そんなある日、「どなたか練習がてら私の作品の表紙絵を描いてくれませんか?」という高橋さんのツイートを拝見し、恐れ多くも「もしよろしければ……」と立候補させていただいたところ、喜んで承知してくださいました。

高橋さんは「百社巡礼」という全国各地の神社を巡り、その地に伝わる伝説や伝承を対談形式で語るオーディオブックを制作されているのですが、このようないきさつにより、今回はそちらの新作のカバーイラストを描かせていただくことになったのです。

前置きが長くなってしまいましたが、今回はイラストを描くにあたり、拝聴させていただきましたオーディオブックの内容から、感じたことなどを綴っていきたいと思います。



イラストを描かせていただくことになった回は、「阿波に眠る水の女神・アマテラス」というタイトルで、徳島県にある「八倉比売神社(やくらひめじんじゃ)」に伝わる伝承が語られています。

ネタバレになりますので、詳細は割愛させていただきますが、こちらの神社では一般的に太陽の神とされている天照大神が水の神として祀られ、葬儀の記録まで残っているという、大変興味深い内容となっています。



天照大神が死亡したというのは、もちろん、古事記にも日本書紀にも書かれてはおりません。

「だいたい神様って死ぬの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、古事記にはイザナギが亡くなった妻を追って黄泉の国へ行くというお話もありますし、私自身は「神話は実在の人物を神格化させた記録」との認識を持っておりますので、その点に関して疑問を持つことはありませんでした。

(天照大神は卑弥呼を神格化したものだと個人的には思っているのですが、実際にこちらの社でも、社内にある古墳を卑弥呼の墓とする説があるそうです)



いつしか話は「葬式の記録を残したということは、天照大神を死んだことにする必要があったのでは?」という方向に進んでいき、それはやがて「過去の信仰を廃し、新しい時代を人々に認識させるためではないか」という見解へと発展していきました。

そうして最終的には「そういえば、ヒトラーを肯定して消されたAI(人工知能)があったね」と、一見突拍子のない方向へ……。


「そう考えると、神はAIみたいだね。完璧を求められるのに、時代に合わなくなったら消される」


この発言を耳にした時、私は思わず身を乗り出してしまいました。

なぜなら、私が今まで思い描いていた巫女像をAIに置き換えたら、あまりにぴったりおさまったからです。

私は作品の中でよく巫女など、シャーマンを登場させていますが、彼らを魔法使いや超能力者の類とは思っておりません。

一見彼らは人間離れした能力を発揮していますが、それは人間本来が持つ能力を高めたものであったと考えているのです。



例えば、私たちの視力は、一般的には2.0もあればいいほうですが、アフリカの原住民の中には、4.0かそれ以上の視力を持つ人々が存在します。

また現在私たちは、コミュニケーション手段として主に言葉を用いていますが、イルカなどは超音波で仲間と連絡を取り合っていると言われています。

我々人間も言葉がまだなかった時代には、別の能力を使って意思伝達をしていたかもしれないのです。



このように人は、優れた知能を持ってしまったがゆえに、ツールに依存することになり、本来持っていたはずの能力が退化してしまったのではないかというのが私の持論です。

もしかしたら今後、ネットがコミュニケーション手段の主となり、直接顔を合わせる機会がなくなっていけば、いつか「人の顔色を見る」という能力もなくなってしまうかもしれません。

そうなれば、「あの人嬉しそうだったね」とか「昨日、怒ってたよね」というと、「なんでわかるの?」と超能力者扱いされる日が来るかもしれません。



話がややそれましたが、このように本来持っている能力を、修行や訓練によって開発させたのが、シャーマンと呼ばれる人々ではないかと私は思っているのです。(注 すべてのシャーマンがそうというわけではありません)



また、巫女は処女でなくてはならなかったとか、俗世から隔離されていたと一般的に言われています。

実はこの理由が、私が巫女をAIに似ていると感じる、最大の理由だったりします。

私は、巫女の占いとは統計学によるものだと思っていて、私利私欲のない人間が統計をもとに、公平に導き出す答えであったのではないかと考えています。

このお話を高橋さんに聞いていただいたところ、「あらゆる知識や考え方を混ぜ合わせて、マグマのようにぐちゃぐちゃになった中から、無意識に一本糸を引き出すような行為」と、大変わかりやすく表現してくださいました。

これって、あらゆる知識や考え方などをインプットしておいて、投げかけられた質問に対してその中から最適な返答をさせるという、AIの仕組みとどこか似ていませんか?



私利私欲を持つと、人は公平な判断ができなくなってしまいます。

例えば、死を覚悟するような危険な地域にA班かB班のいずれかを派遣しなくてはならなくなった時、巫女の愛する男性がA班にいたとしたら、彼女はA班を行かせたくないと思うでしょう。

このような考え方に基づいて、私は「ラスト・シャーマン」の中で、「巫女は恋をすると霊力を失う」という設定を組み立てました。

だから彼女らは、俗世から隔離され、未婚者とされていたのではないかと。



けれど、彼女らの悲劇は、彼女らがいくら公平な判断を下そうとしても、それを導き出すための材料が必ずしも公平ではなかったということです。

先ほど、ヒトラーを肯定して消されたAIの話が出ましたが、これは故障でもない限り、このAIが勝手にそうなったのではないはずです。

直接的ではなかったとしても、どこかでヒトラーの考えを良しとするデータがインプットされていたのです。

私たち人間は、危険な思想に対し、仮に理解できる部分があったとしても、理性によって「やはりそれは良くない」と考え直すことができます。

しかし、AIには感情がないからこそ、インプットされた中から無機質に答えを選び出してくるのです。



巫女も同じく、あらゆる知識や思想を頭に詰め込んで、彼女にとっていくら公平な答えを導き出したとしても、それらの中には必ず時の権力者の思想や、その時代特有の考え方が含まれていたはずです。

つまり、権力者や時代が変われば、彼女らの占いは逆に危険なものと受けとめられた可能性があるのです。

だとすれば、危険とみなされて消されたAIのように、消された巫女もいたのでは……と思うと胸が痛みます。



それと同時に、今後より高度なAIが開発されていくであろう中で、インプットされる情報を、いったい誰が精査していくのだろうという懸念が浮かんできました。

所詮、人の考えることに完璧などありえません。

そんな不完全な人間が考えたデータをインプットされている限り、AIも完璧になることはないのです。

そもそも、何をもって完璧というのか、おそらく私たちはそれすらわかっていません。

思想や常識など、立場や時代が変われば、まったく異なってしまうものなのですから。



この先、人間が危険だと認識せず、何気なくインプットした情報がきっかけで、AIが暴走することは十分考えられます。

その時、我々に彼らをシャットダウンする術は残されているのでしょうか。



※ブログから転載するに際し、一部内容を変更させていただいております。


※文中で発言されているものは、ニュアンスをお伝えしたもので、まったく同じ内容ではありません。あしからずご了承ください


2016年9月3日

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