アープの日記

アープの日記1

◯月×日


人間も書くという日記というものを、俺もつけてみることにした。

アーリィも毎晩、頭を抱えながら日記をつけている。

あいつはどうも引き算が好きらしい。

月末になると特に、今月も家賃が払えないとか

嘆きながら、熱心に日記をつけている。

どうやら日記とは気が重くなるもののようだ。

やはりつけるのはやめるとするか。



◯月△日


今日は、図書館で『爬虫類の飼い方』を返したあと

『よく当たる動物占い』を借りてきた。

動物つながりだ。

図書館の者がなぜか首をひねっていた。まあいつものことだ。

この本を読むには誕生日とやらが必要らしいが、

以前アーリィに勝手に決められたことがあるのを思い出した。

しかし、これには俺が生まれた年は載っていないようだ。

せいぜいここ百年程度しか対応していない。

使えない本だ。



◯月▽日


今日は、居間で竜形態でくつろいでいたところ、

アーリィが勢いよくドアを開けたために頭に当たり

ドアが粉砕した。

アーリィがめちゃくちゃ怒っていた。

そのあと人間形態になって、ドアをつけかえた。

今年3度目だ。

それにしてもこの家は狭い。



◯月#日


アーリィが、家計簿がないと言って探していた。

それなら昨日、小人が隣りの部屋へ引いていったが。

この前はカラの財布を運んでいった。

それにしても小人は、何のためにあんなものを取り込むのだろう。

謎だ。



×月÷日


人間の書いた、竜にまつわる伝説をいくつか読んだが、

あれは〈竜人〉にはあてはまらない。

伝説に出てくる竜はたいてい迷宮の奥に潜んでいて、

金銀財宝を山のように抱え込んで護っているものだが

この家には金銀財宝など存在しないし

迷うほど広くもない。



×月∀日


アーリィが毛糸玉とたわむれて遊んでいた。

そのごわごわの塊は何だと問うと「まふらー」だと言う。

何に使うんだとたずねると絶句していた。

そのあと急に機嫌が悪くなった。

今日見るとカルルが「まふらー」で首を絞められていた。

そうやって使うものらしい。



     ×月∀日


     アープのばか。

     ばかばかばかっ。



×月∠日


今日、俺の前を黒猫が横切った。

鏡が割れた。

カラスが鳴いた。

靴のヒモが切れた。

五つ葉のクローバーを見つけた。


今日も何事もない一日だった。

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