緑風の季-2
ちゃぽん。
水面に、波紋が伝わる。
波紋が伝わる先をぼうっと見れば。
凡そ、10歩程だろうか。 やや広いと言っても良い、対岸に当たり、消えるのが見える。
ぶくりぶくりと、白い細かい泡が掻き消えるのをじっと待ちながらの、ほんの短い時間。
「うっし、川岸からの距離完璧。 流石俺。」
「いや、其処自信満々で言うところ?」
「じゃあなんだよトキ。 お前一人で野宿なんて出来んの?」
「一人なんて考えたこと無いからねー。 その辺は全部お任せ。」
「都合のいいやつ。」
事実を事実のまま伝えれば、いつもこうだ。
まぁ、僕自身でも出来ることが増えればその分やれる幅は広がる。
その内、簡単な
苦笑する、ティニアの顔に苦笑で返す。
「ついでだし鍋に水も汲んでく?」
「だな。 どうせだしスープ作ろうぜスープ。」
「何? わざわざ骨から煮込めって?」
「ばっか、ンなことしてる余裕あるわけねーだろ。」
噂話で聞いただけ。
そんな無駄なことをしてる余裕も、余計な薪が有るわけもなかった。
だから、それはある意味小さな夢。
料理店で、しっかりとした料理をお腹一杯に食べること。
すぐにでも叶う夢のようで――――そうでもない気がしている、それ。
「干し肉の塩で軽く味付ける程度が精一杯だろ。」
「鳥の肉と……後は葉っぱでも入れよっか。」
「嵩増しなー。 昔よくやったなー。」
「嵩増しじゃなく味を整えるためだよ。 丁度其処にあるし。」
指を指した先。
木々の下にこっそり生えている、双葉に別れた香草。
ややすっきりとした味わいがする物で、探そうと思えばこの周辺ならば手に入りやすいモノ。
塩っ辛い程に漬けられた、それこそ頭が痛くなる程のモノを交渉で安く仕入れた干し肉を緩和するには、丁度良いものだった。
「料理ねえ。 その辺はどーにも勝てなかったからなぁ。」
「ティニアは外向き。 僕は内向き。 ある意味役割分担だったし。」
「はは、まあそりゃそうだな。 ……んで、土の精霊はどうよ?」
「ちょっと待ってね……んー。」
軽く目を瞑り、今何を感じているかを感じる。
こうして、精神力を分け与えている今だから出来る同調。
更に成長すれば別だとは言うけれど。
僕はそんな
本当に、最低限の。
『
だからこそ、なのだろうか。 一人で何も出来ないと。 諦観してしまったのは。
そんな、諦めにも似た感情を抱いてしまって、自虐しながら。
草の根、石の塊。 そういった……精霊の感じ得るモノを、
「向こうに草の群生地があるみたい。 後、これは……石の塊?」
「お、鉱石?」
「内部まで見通せないって言ったじゃん。 実際砕いてみなきゃ分かんないけど、ツルハシでもあるの?」
「有るわけねーじゃん……。 端っこでも見えてりゃ多少は分かるんだけどなー。 師匠は外からでも見通してたし。」
「それは
相変わらず、自分に出来ないことを求める癖のあるな、と。
そんなことを感じた矢先、だった。
「……ティニア、群生地の方、行こう?」
「んあ? どうかしたんか?」
「いや、これは多分だけど――――。」
地面を強く踏み付け、走る振動。
それから少しだけ遅れて、引き摺るような搖動が続き。
若干遅れて、軽い振動が幾つか。
街からの距離、現状――――森の中。
そして、この振動。 以前にも、感じたことがある。
「多分、
「は?
「分かってるでしょ。 彼奴等の特性。 嫌な予感がするんだ。」
「相変わらず変わんねーなぁ、その――――。」
先導する。
そう言い残して、土の精霊の居場所に向けて先行する背中に投げ掛けられた言葉。
「人助け癖。 ……ま、嫌いじゃねーけどよ?」
五月蝿い。 それは、ティニアもだろうに。
そんな言葉を、飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます