2.緑風の季
緑風の季-1
生物は火によって生まれ、水によって生き永ら得る。
土によって恵みを受け、風によって清らかさを感じる。
陽によって肉体を保持し、月によってその恵みを神へと還す。
属性とは、神に依って与えられた証であり。
それ故に、生物は恩恵を受け、恩恵を還すモノなのだ。
――――とある神学者の日誌より。
※※※
はらりはらりと葉が舞い落ちる。
長かった寒さを乗り越えた証として、暖かい風が優しく吹く。
自然から恩恵を与えられたかのように、動物たちも巣穴から這い出て。
そこかしこに、彩りが目を楽しませる。
そんな
――――ぱすん。
空気を切るように、糸の震える音と。
地面に何かを縫い付ける音が、周囲に響いた。
ばさばさと飛び去る鳥達を見送りながら。
そっと、隣の。 弓を放った少年に問い掛けた。
「どう? 当たった?」
「羽根の付け根に当たったはずだ。」
ガサガサと、藪の中から姿を出して歩いて行く背中を慌てて追いかける。
凡そ60歩程だろうか。
近付けば、暴れるやや大ぶりの鳥の鳴き声が僕の耳にも届き始めた。
やや灰色掛かった、必死で逃げようとするその鳥を見て。
……ごめん、と。 一瞬だけ、目を瞑った。
ティニアは、慣れた様子で。
片手で暴れる鳥を抑えると、腰に付けた短刀で首の血管をそっと傷付け、其処から逆さ吊りで血抜きを始めた。
「取り敢えず、後一匹。 出来れば同じサイズのが手に入ればいいんだが。」
「どうだろ。 街まで後一日くらいだし無理して進んでもいいとは思うけど。」
「薬草と、道中捕まえた動物から考えりゃ銀貨二枚に届けば御の字だぞ? もう少し欲張れよ。」
「あんま欲張りすぎても良くないよ? 必要な分、必要なときだけ。 そうでしょ?」
「それもそうだがなぁ。」
ぽたり、ぽたり。
血液は少しずつ地面を濡らし、傷口からはその分紅い液体が消えていく。
生きるための糧。 捕食者と、被食者。
その関係は、恐らく。 どの生物にも当てはまるのだろうと。
相も変わらず、妙な感傷に浸りながら。
「ま、積極的にもう少し稼いで余裕を持ちたい。 トキ、お前も《精霊術》でどうにかしてくれよ。」
「其処まで万能じゃないんだけどなぁ……。」
やれやれ、とばかりに杖を構える。
未だ《精霊》にさせられることが少ない現状。
恐らく、行うべきは――――。
「鳥と薬草、どっちがいい?」
「薬草で。 ついでに鉱石とかねえかな。」
「此処鉱山のワケがないでしょ……。」
すぅ、と息を吸い。 意識を切り替えた。
「我が精神力を代償に、守護精霊の一角。 緑を司りし精霊よ、我が影から現れ給え。
『
影から、地面を伝って何かがいるのが見え始める。
ぼこり、とまるで土竜のようにして。
地面の中を伝う何か――――土の下級精霊。
「草の根か……鉱石とか。 後は……人の気配とかしたら教えてくれる?」
返事の代わりに一度土煙。
其処にいた筈の気配は少しずつ溶け、周囲に広がっていく。
「一応これで調べられるけど、薬草かどうかは分かんないよ?」
「逆に分かったら怖いっつーの。」
「いや、そういう風に成長させれば分かるんだけどさ。」
「……やっぱ万能じゃねーか。」
「何処が。 逆にそれ以外じゃ殆ど何も出来ないようになっちゃうよ。 僕等の目的とは違うじゃん。」
「ある程度方向性が決められる事がだよこんにゃろ!」
憎まれ口と一緒に、頭をわしゃわしゃと掻き回された。
突然の事に抵抗もできず、あわあわとするのが手一杯。
「ま、じゃあその土精霊に頼んでいる内に……。」
「ぁぁ……髪の毛ぐちゃぐちゃじゃん。 ……何すんのさ、こんなことしておいた上で。」
「決まってんだろ。」
革袋の中から取り出した、これまた小さな革袋のようなもの。
僕も全く同じものを持っている、それ。
「水汲みだよ。 行くぞ。」
「相変わらず強引だなぁ。 ……ごめんね、ちょっと離れるから。」
……やはり、一度。 小さな砂煙が上がった。
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