序章-3

「それで、暫くはこんな感じで進むのか?」


食休みを兼ねた、若干の休憩時間。

恐らくは、兎を獲った際に用いたのだろう。

短刀の刃を簡単に手入れしながら、ティニアは。

干し肉の管理を続ける僕にそう問い掛けてきた。


「出立してまだ3日しか経たないんだし、食料とかその辺は節約していくことに越したことはないでしょ?」

「それには同意だが、金銭的に街に着いてからが厳しくね?」

「比較的弱い部類の《魔物》か、ついでに簡単に鞣してるこの皮が売れれば一泊くらいは……?」

「お前、その考えは甘すぎんぞ……。」


やれやれ、と呆れを多分に交えた表情で。

分かりやすい程に肩を竦めてみせる彼に少しばかり苛立ちを覚えながら。

まあ確かに、と思う自分もいて嫌になる、そんな相反した感情を心の中で抑え込んだ。


「ま、孤児院育ちなら仕方ない部分もあるけどなー」

「それはティニアもじゃん……。」

「俺は狩人のおっちゃんに付いてたからな。 若干はそういう取引も教わったんだよ。 お前は?」

「……延々と精霊召喚の練習。 一人で。」

「《人間族》だと確かに珍しいからな。 ま、とは言え1000人に1人だか万に一人はいるくらいなんだろ?」

「らしいね。 僕は良く知らないけど。」


つい昨日のようにも思える、三日前。

僕等は、成人すると時を同じくして。

生まれ育った村の孤児院を出て、『冒険家』アドベンチャラーとして出立した。

以前から少しずつ、手伝いをして貯めていた駄賃を叩き。

ロープや皮で出来た水筒、中古の外套などを買い込んでの出発。

正直なところ、不安が無かったとは決して言えないし、言うつもりもない。

だけど――――寧ろ、未知の場所へ飛び出す興奮の方が前に出ていた。

それは、恐らくティニアも同じく。

昔から内向的だった僕と、外交的だったティニア。

そんな違う二人だったけど、不思議と気が合って。

遊ぶのも、勉強も、そして未来も。

当たり前のように、二人で計画して。 そして、こうして二人でいる。

それが不思議で、そして。

少しばかり、誇らしかった。


「多分街で一泊するのに、食事込みだと銅貨30枚は最低でもいると思う。 これが最低ランクだから、やや高めに見て二人で一日銀貨一枚だ。」

「銅貨100で銀貨1、銀貨100で金貨1、と……。 金貨見てみたいよねー。」

「流石にそれ以上は泊まる理由もねえし考えない。 んで、この兎は多分二枚で銅貨10前後。」

「つまり、最低でも後18羽?」

「そんな捕まえらんねーよ。 猟師舐めんな。」


ハッ、とそれこそ小馬鹿にするように吐き捨てられる。

端から見れば、それは只の態度の悪い悪餓鬼にしか見えないとしても。

長い付き合いの僕には、若干の悔しさも隠れ見えていた。


「だから、途中で薬草を取りたい。 後は見かけたら《魔物》退治だな。」

「薬草? 一応この時期だから多少はあるだろうけど……。」

「その辺の知識は俺とお前のすり合わせだな。 少しくらいは覚えあんだろ?」

「まあ、一応。 ただ本で読んだだけだから確実じゃないよ?」

「持っていく先はギルド。 見るのは専門家だ、多少の間違いは跳ね除けてくれんだろ。」


あ、確かに。

”それを目的に朝から取る”のだったら一日を無駄にする可能性が高いけれど。

”通りがかりについでに”ならば、少しばかりの時間と引き換えに。

これからの知識と、あわよくば小金も手に入る、ということか。


「受付次第になっちまうが、その辺は賭けだな。」

「着いたら、勉強させて貰えればいいけど……。」

「前から決めてたろ? 最初は勉強だ。 多少の、目先の儲けは捨てて知識を蓄える。」

「そして色んな技能スキルを身に付けてからが本番。 大丈夫だよ、そのくらい。」


どうだかな、と口元を歪めて嘯くティニア。

皮肉っぽいのは昔からだけれども。

その回数が増えているのは、多分。 少しばかりの”冒険”への熱が関係ないとは思えなかった。

干し肉の端にそっと触れ、乾燥状態を確認しながら。

苦笑いで、その言葉への返答とした。


「大分乾いては来たよ。 後半刻もすれば3~4日は持つ位にはなると思う。」

「……本当、反則だよなそれ。」


……時間短縮出来て、良いと思うんだけどな。


緑風りょくふうの季、1日。

僕等が旅に出て。

自称『冒険家』としての、三日目の事だった。

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