序章-2

ぱちぱちと、小さな火花が飛び散る森の広場。

ただ火を見詰めながら。

時折中を弄り、風の通りを良くするだけの時間帯。


――――火は、神聖なるものだ。


火、水、風、土、陽、月。

存在する6つの精霊の中でも、火はとても身近に感じるもので。

そして、最も身近な危険の一つだと身を以て学んでいた。

無論、その他の存在が身近でないとは決して言えないし、言う気はない。

けれども。

焚き火を見詰めながらに思う。

この火が森に放たれれば。 逃げ場も無く、僕は焼け死ぬだろう。

この火が身に纏わり付けば。 消す時間もなく、僕は焼けた肉と化す。

生と死、身近な友にして死神。

僕は、火をそんな存在だと思っていた。


※※※


「悪い悪い、うっかり獲物探してたら時間掛かっちまってさ」


そんな思考にどれだけ揺蕩っていたのか。

さくり、と泥土を蹴る音と声に気付いた時には。

日がほんの少しだけ浮かび上がって見えた。


陽光に照らされる「彼」の姿を、手で覆い隠しながら少しばかり睨む。

やや悪戯っぽい笑みを浮かべ、黒ずんだ焦茶色の髪をショートに切り。

森に潜むための外套を羽織り、腰に古びた短刀を二振りと弓を背負った少年を。


「だったら少し位声掛けても良かったんじゃないの?」

「しゃーねーだろ、声掛けてたら獲物が逃げちまっただろうからさ」


片手にぶら下げた獲物――小さな兎が二羽だ――をゆらゆらと示しながら。

若干言い訳がましく口籠る彼。

わざとらしく溜息をついて、其処で一度負の感情をリセットし。


「ま、今日の朝御飯には丁度いいかな……ティニア。」

「おいおい、少しは干し肉にでもしないと明日から持たねえぞ、トキ。」

「だったら早く加工する用意しようよ。 血抜きは?」

「俺を舐めんな。 とっくに済んでるから後は皮を剥ぐだけだっつーの。」


僕――――トキと。

少年――――ティニアは。

眼を見。 互いににやりと、笑ったのだ。


※※※


「『召霊サモン小風精霊リトルウインドエレメンタル。』」


皮を剥ぎ終わり、朝食にするのに十分な量を分け合った後。

凡そ一口大に切り分けた兎肉を糸で吊るし、今度は先ほどと違う風の小精霊に力を乞うた。


「相変わらず思うが、《精霊術》をそんな簡単に使って良いのかお前。」

「逆だよ、逆。 使わなきゃ行けないの。 寧ろ積極的にね。」


串に刺した肉が音を立てながら油を垂らし。

それを表裏と何度か返しながら、精霊にそよ風をお願いする。

若干周囲の気温よりも低めのそよ風は。

本格的な干し肉でなく、半生程度の直ぐに消費するモノには丁度いい感じだと、そう感じながら。


「その辺は実際使わないと分かんない感覚だろうけど……アレだよ、ティニアだって《狩人》の技術使わないと錆びるでしょ? その感覚に近いんだよ」

「って言ってもなぁ。 俺等のは技術の鍛錬だが、《精霊術》は育成みたいなもんなんだろ?」

「だからこそ使わないといけないんじゃんか」

「その辺がなぁ。 俺には《精霊術》も《魔導師》の才能も無かったからねえ。」

「なに、その僻みみたいな言い方……。」


ホラ焼けたぞ、と手渡されたそれに豪快に齧り付く。

若干焦げ目が付く程度に焼かれたそれは、舌には熱く感じたけれど。

その痛みを超えて余り有る油と、歯に感じるしっかりとした歯応え。

そして、それを嚥下した時に感じる純粋な”旨味”に若干感動すら覚えながら。

上目になってみれば、僕と同じく。

ティニアも食事に夢中になるように、明らかに早いペースで肉を消費していく。

結局、それから少しした後には串には何も残らず。

まだまだ若い僕達には多少物足りない食事は、其処で終わりを見せた。

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