精霊術師と月花の魔術師達
@ice3162
1.序章
序章-1
全ての生あるものは神々の加護の下に。
邪なる者も、聖なる者も。 等しく、汎ゆる神々の加護の下に存在する。
故に、存在した時点であれば。
その存在の重さは同じに過ぎず。
生きるために何をするか。 何を為したか。
此等を以って、生の価値と我等は定める。
――――神々、かく語りき。
※※※
ざばん、と水が零れ落ちる音がした。
川の畔、陽の昇り立ての時間。
定刻を知らせる、小さな鐘すらも鳴る前の静かな時間に、その音は響いていた。
ざばん、ざばん。
幾度か響くその音の中に、小さく息を吐く声が混じっていたのに気付いたのは。
その場にいた少年と、森で朝早くから食事を求めていた小鳥位のものだっただろう。
光が反射する水面で顔を洗っていた彼が、顔を小さく振りながら目を開く。
水面の反射で映る、いつもの顔。
ある程度切り揃えられた茶色の髪、とろんとした澄んだ
あちこちを繕ったような汚れた服に、それを覆い隠すような皮のマント。
見慣れたその顔をじっと見、一度小さくよし、と唱え。
右手で、水面にも映っていた茶色の杖を持ち。
それを地面との支え棒のようにして、しっかりと立ち上がった。
「さて……っと。」
小さく響く声は、声変わりして間もないともそうでないとも取れる声色で。
周囲の木々の間で響くには、不思議と馴染んでいるような。
端的に言えば、其処にあって当たり前のような。
そんな”力”が宿っていた。
「何処まで探しに行ったんだろ。」
きょろきょろと視線を彷徨わせ、森の中に足を踏み入れる少年。
木々の根が張り巡らされ、迂闊に踏み込めば。
或いは、慣れない村人であれば脚を掬われるような、そんな状態にも関わらず。
手慣れた様子で、足取りを少しずつ進めていた。
頭上は、生い茂った葉で陽光を遮られ。
そのやや下辺りに、黄色や赤色といった色取り取りの果実が視界に映る。
それらに目を向ける事無く、少しずつ前へと進んでいく。
まるで、目的地が分かっているかのように。
※※※
暫く歩いていると、森は少しずつ開けてくる。
人工的に行われたものではなく、自然災害的に木々が倒れ。
それを避けるようにして成長した若木がまた倒れ。
そんなことを繰り返され、奇跡的に出来上がったやや小さな広場とも言える場所。
そんな場所まで歩いてやってきて、小さくくん、と鼻を鳴らした。
「(……血の匂い。 この辺まで来たんだ、態々。)」
そう思うが早いか。
近くに落ちていた乾いた枝を十数本に、積み重なった土の上の方、出来る限り乾いた葉を集め。
円状に合わせ、小さな焚き火のような状態を作り上げる。
それらは決して訓練などで身に付けたような、上品な形では無かったけれど。
試行錯誤を繰り返し身に付けた、ある意味では泥臭さすら見える手慣れた動きだった。
完成した焚き火モドキの前で、杖を片手に小さく呟く。
「我が精神力を代償に、守護精霊の一角。 熱を司りし精霊よ、我が影から現れ給え。
『
ぽ、っと。 杖の影、ある意味では先から赤い火花が散る。
何事も無い空間――――いや、何かを起こした空間を行き来するかのように。
その火花は少年に向けて二度三度、末端の火花を飛ばした。
「うん、その枝に火を付けてくれると助かるな。」
至極当然のように……と言うよりは、少年が呼び起こしたのだろう。
”生物”のような火花は、返事をするかのようにして枝に火を灯す。
一瞬で加熱するかのように、葉の末端に灯った火は勢いを増し始め。
やがてぱちぱちと、小さな煙を上げて正しい意味での”焚き火”となった。
空間に漂う火花を残して。
「ありがと。 残りはいつも通りに、餌にして。」
その声を聞き、数秒後。
その火花はまるで煙のように姿を消した。
とても普通では考えられないような行為を行って尚、当然のような顔を続ける少年。
何度か枝を投げ込み、焚き火を消さずに保ち続けながら。
恐らくは、誰かを待っていた。
その煙が合図のように。
その存在が、確かに存在するかのように。
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