サファイアの話 第3話

 "ない"から"ある"をみつける……では、どうすればよいか。


 いま、"ある"ものは、蒼玉サファイアの「首飾りネックレス」ではなくて「腕輪ブレスレット」だけ。ということはまず、花魁に腕輪を贈ったその若様とやらに会って話を聞き、若様と赤鼠の偽物がつながるか否かを確認するべきではないか。マツはそう考えた。


 だが、一介のゴロツキが若様に会うことなど出来るはずもない。

「……出来ないことはないが……」

 テツジはそう言って、溜息を吐く。

 当たり前だが花魁の客は一流でなければならない。商人あきんどであれば江戸の中でも一、二を争う大店の主ばかり。武家であればどこかの御家中ごかちゅうの御家老やら、大金持ちのお旗本。どのお客も品の良い、金払いの良いお客ばかりだが、時折、そのお客が連れて来るお連れさまが良くないことがあった。

 そのために、花魁のお座敷には桃源楼の妓夫ぎうを取り仕切る"まつり"という名の妓夫頭ぎうがしらが常に付き添っているのだが、この"まつり"一人では対応出来ないほどに連れ客が良くないこともあり、その時は新米の妓夫がこっそりとお座敷を抜け出てテツジを呼びに来ることがあった。

「俺たちが、妓夫のまねごとをしようというのかい」

 もちろん妓夫にも品格というものがある。

 特に花魁道中につき従う妓夫というのだから、それはそれなりにしっかりした所作を身に付けていなければ桃源楼の恥となり、客前に出ることすら叶わない。

「そういうわけで、ゴウやバクには頼めない」

 テツジの言葉に、マツが大声で笑った。

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