サファイアの話 第2話
テツジはことの顛末をマツ、ゴウ、バクの三人に話す。
まず三人は、"赤鼠"の偽物が出てきたことに驚いた。
ゴウとバクは「偽物がでるなんて、俺たち、有名人みたいだ!」と、変な喜び方をする。
「馬鹿野郎、喜ぶことか!」
マツが、ゴウとバクを叱りつけた。
「偽物がどんなヤツかはしらねえが、もしもそいつが捕まってみろ。俺たちだって芋づるでお縄になる可能性だってあるんだぞ!」
マツは親指の爪をかみながら、小さく、しかし激しく、何度も何度も舌打ちを繰り返す。
「落ち着け、マツ」
テツジがマツをたしなめたが、マツはテツジの言葉など耳にも入らぬように、何度も何度も舌打ちを繰り返す。
「……俺たちが捕まえるしかない」
マツの言葉に、ゴウとバクは耳を疑う。
「何だって?」
「赤鼠の偽物は、俺たちが捕まえるしかねえって言ってんだよ」
マツの言葉に、今度はテツジも驚いた。
「しかし、下手人のことは何にも分かっちゃいねえんだぞ。男か、女かすら……」
「それを調べるんだろうが!」
マツが叫び、テツジ、ゴウ、バクの三人が押し黙る。
「まず、一番の問題は盗まれた
沈黙を破り、マツが続けた。
「蒼玉があるかないか……だって? 事実、大分屋の旦那が盗まれたって言ってるんだから、あるに決まってんだろう?」
バクがマツに問う。
「蒼玉の首飾りは大分屋から盗まれ、大分屋が奉行所に届け出た。ではその蒼玉、大分屋の外の人間が見たことはあるのか? 少なくとも盗んだと訴えられた俺たちが見ていないんだぞ」
「つまりマツは、蒼玉の首飾りの話は大分屋の嘘で、若様の蒼玉の腕輪とは別物だと……?」
テツジが訊ねると、マツは首を横にふる。
「それすら、わからない。だから、それについては俺は答えない」
蒼玉の首飾りが大分屋の主人の部屋の床の間から赤鼠によって盗まれた。大分屋からは、そのように届け出が出た。だが、現実問題として蒼玉の首飾りを見た者はなく、大分屋に忍び込んだという赤鼠の姿も、誰が見たというわけではない。
すべてが、「ない」のだ。
ただ、大分屋の床の間に残された、実在の赤鼠たちより小さい足跡と、大黒柱に残された奇っ怪な泥以外は……。
「まずは、"無い"ところから"有る"ものを見つけねばならん」
マツの意図を正しく理解してテツジは頷いたが、ゴウとバクは未だマツの話が半分ほどしか理解出来ずに、お互い顔を見合わせて首をかしげた。
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