長屋の話 第2話
マツを得てからの赤鼠は、噂通りの「鮮やかな盗みの手口」を披露した。
マツはテツジに、不器用でも出来る簡単な錠前破りの仕方を教え、別の錠前を用意して、破った蔵の錠前の代わりにかけておくことを教えた。こうすれば本当に、家主はしばらく経っても盗難に遭ったことに気づかない。
マツもテツジも背が高く、体重の割には身軽な方だったから、深夜、人気の少ない大店の蔵や土蔵に忍び込むことは簡単だった。
テツジは盗んだ品物をどこかで売り捌き、金に換えて赤鼠のみんなに配るのだが、自分の取り分はどこかの長屋の前に置いてきてしまう。
ところが、長屋の連中は小判など見たことがなくてそれが何だかわからないし、中には律儀者もいて、置かれた小判をご丁寧にそっくりそのまま、奉行所に届ける者もいた。
それでマツは赤鼠のゴロツキ達を使って、江戸の方々の長屋に噂を流した。
「赤鼠が家の前に置いた金子はその日のうちに使い切らぬと、その家のこどもが盗って食われるそうだ」
我が子を喰われてはたまらないと、テツジが金子を置いた家の親たちは必死でその日のうちに小判を米や野菜、着物に替え、自宅だけでは使い切れぬからと、隣近所に配り歩く。
今まで見たこともない大金を一日で使い切らねばならないため、金子を置かれた家は大変だったが、隣近所の長屋もその恩恵にあずかることが出来たので、「我が家に来られては迷惑だが隣の長屋に赤鼠が来ぬものか」と、長屋の連中はそんな身勝手な期待をするようになった。
だが、赤鼠への恩義は充分に感じている。
当然、赤鼠が出たら金子が置かれた長屋にも同心や岡っ引きが調べに来るのだが、「赤鼠は妖怪だ、幽霊だ」などと言って震え上がり、まともに調べに応じる者はいなくなった。
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