長屋の話
長屋の話 第1話
マツは、赤鼠の三回目の窃盗、材木問屋岡田屋の事件から深く関わっている。
何故テツジが窃盗に手を染めるようになったのか、それは聞かない約束だった。マツはただ、ほの香を手に入れる金が欲しくて、赤鼠に荷担した。
マツが入る前の二回の窃盗は、ゴウとバクが裏で手引きし、テツジ一人で行ったというのだが、テツジがさるところから入手した御店の間取り図を元に、御店の裏口から侵入し、屋根に登って、屋根裏から蔵に入り……という、世間で噂されているような「手口が鮮やかすぎて家の者が気づかない」とはほど遠い、古典的な忍び込み方。
「……ダンナ。真面目な話をしましょうや」
マツが、テツジを睨み付けた。
「前の二件で盗んだ宝……そもそもが盗品じゃねえのかい」
ゴウやバクを下がらせ、テツジとマツだけの部屋の中。何の気遣いもなく、マツは単刀直入に、テツジにそう訊ねた。
「なぜ、そう思う?」
テツジは、盗んだ宝の価値など知らない。だから、マツの問いかけに心底驚いて、逆に問い返した。
「……ダンナが盗んだ品はすべて、観賞用の飾り物。普通なら、主人の部屋や応接間に飾って見せびらかしておくようなものだ。そんなものをなぜ、蔵にしまう必要があるんだ? 盗まれた方も、曰く付きの宝物だから、隠しておく必要があったんじゃねえのかい。奉行所に届け出が遅れているのはアンタの盗みの手口が良いからじゃなく、盗まれたお宝の入手経路を隠蔽する時間が必要だった……俺は、そう見てるんだがな……」
マツの言葉に、テツジは覆面の向こう側の瞳を曇らせる。
「なあ、ダンナ。腹割って話そうや。この盗み、アンタが自分で考えてやってるわけじゃあねえだろう? なあ、一体、誰に頼まれてるんだ」
マツが静かにテツジに問いかける。
「……それは、言えない」
テツジの「言えない」という答えに、マツはこの赤鼠がテツジが組織したものではなく、マツもまだ知らない十七人目の"赤鼠"がいると確信する。
「では、聞かぬ。だが……曰く付きの品物を盗んでいることの自覚はしておくんだな」
マツはテツジにそう釘を刺し、テツジが広げた間取り図に目を通した。
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