Piece2 挨拶

教室のドアを引き、中に入った竜と翔はお互い自分の席に着いた。竜は廊下側から2列目前から2番目の席で、翔はその横で1番廊下側である。


「まさか、席まで横かよ。」


「本当だね。」


話しかけたのは竜だった。翔も驚いたのか返事も一言になってしまった。


「ワイら、もしかして二中のキャッチャーとショートか?」


大阪弁で声をかけてきたのは竜の左前の席の丸坊主の男だった。


「そうだけど、君は?」


翔はなんのためらいもなく返事をした。


「あぁ、すまんな。ワイは中央中でセンターやってた、松本悟志。自分たちのことは、県内でも有名な選手やったから知ってたんや。まさか、同じ高校になるなんてな。夢みたいやわ。」


悟志は、2人に気を遣うことなくフレンドリーに話しかけてくれた。竜と翔は、とても助かった様子で入学早々友達ができた。


「あ、俺らも自己紹介しなきゃな。俺は、知っての通り二中でキャッチャーやってた榊原竜。」


「そして、僕はショートやってた新垣翔。よろしくね。松本君。」


竜と翔は照れたように自己紹介を始めた。


「ところで榊原と新垣は高校でも野球続けるんか?」


悟志は1番気になることを早速聞いてみた。


「俺は続けるよ。うちの高校は中堅だから強豪校を倒して甲子園に行く。」


「僕は続けないんだ。ついていけそうもないしね…。あと、僕のことは名前で呼んでもらえる?名字で呼ばれるの嫌なんだ。」


「あ、俺も名前がいい。」


竜と翔は中学のチームメイトからも名前で呼ばれていたので、名字に呼ばれることに慣れていなかった。


「ホンマ?じゃあワイも名前で呼んでくれや。そっかぁ、翔は残念やな。1番打者としてもショートとしても県内屈指やったからな。」


竜と翔は、初めて聞く悟志の関西弁に聞き入っていた。


「ねぇ、悟志君は関西の人なの?」


翔はたまらず聞いた。


「おぉ、せや。中2の頃にこっちに引っ越してきてん。いやぁ、それにしてもこんなところで 自分たちに会うとは思わへんかったわ。多分、竜には練習試合で1本大きいの打たれとったしな。」


「えっ、俺たち対戦したことあんの?いつ、どこ…」


キーンコーンカーンコーン。


チャイムの音同時にメガネのかけた若い男の先生があわてながら入ってきた。


「はい、皆さんそろって、…あぁぁっ」


入ってきた早々先生は教壇につまずき、プリントは散乱してしまった。


「大丈夫ですか?」


優しい翔はすぐさま立ち上がり、先生のもとへと駆け寄りプリントを集め始めた。


「ったく、しゃーねぇーな。」


それに、見かねた竜は一緒に拾い集めた。


「はい、先生。」


翔は優しい瞳で先生を見ながら、先生にプリントを渡した。


「どうもありがとうございます。」


若い男の先生は落ち着きを取り戻し、教壇に立った。


「えー、改めまして皆さんおはようございます。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ございません。今日から4組の担任になりました、楽田学(らくだまなぶ)と言います。実は僕、教師生活で初めての担任です。初めてで分からないことが多いのですが1年間よろしくお願いします。」


楽田は生徒に向かって堂々と話した。


「まずは始業式です。出席番号順で並んで体育館に向かいます。その後…」


楽田が話している間俺はふと思った。


  また新しい1年が始まるな。


こうして俺と翔の新たな高校生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る