Piece1 竜と翔


朝の目覚ましが無音の部屋に鳴り響く。


「今日からも俺も高校生か。」


鳴り響いている目覚まし時計を止め、1階に向かった。


「あら、竜おはよう。朝ごはん出来てるから食べちゃいなさい。」


「おはよう。先に顔洗ってくるわ。」


母親の恵は体調を壊さない限り、毎朝竜が起きてくるの見計らってご飯を出してくれる。


そんな、母親にも一時期、反抗期というのも経験したが最近では反抗もめんどくさくなり、なんの気がねをすることなく接している。


「いただきます。」


顔を洗い終わった竜は、昨日の残り物のおかずと味噌汁に加え、サラダとご飯の朝ごはんを食べ始めた。


「ごちそうさまでした。」


特に感想を言うことなく、2階の自分の部屋に向かった。


今日は始業式だけ。


高校でも野球部に入ると中学の最後の大会終了後にすぐ決めていたので、特に焦りという焦りもなかった。


「今日帰りバッティングセンターにでも行こうかな。」


ぼそっと呟いたのがかき消されるかの如く、家にはチャイム音が鳴り響いた。


「竜ちゃんいますか。」


朝の7時半ぴったりに来るのは一人しかいない。小さいころからの親友であり、近所の友達の、新垣翔である。


翔は俺と同じ日、同じ時間に、同じ病院で生まれた。


当然だが、彼らは双子ではない。


まさに運命の子供だった。


急いで俺は、準備して階段を降りた。


「おはよ。」


竜はいつもの如く軽くあいさつをした。


「竜ちゃんおはよ。」


翔は竜のことはちゃん付けで呼ぶ。


幼馴染のせいでもあるが、翔は男の子というよりも女の子のような幼さを兼ね備えていた。


竜は、特に気にすることもなく15年間共に過ごしてきた。


「今日から高校生だね。竜ちゃんは高校でも野球やるの?」


翔は、歩き始めてすぐに話しかけた。


「当然だろ。俺から野球を取ったら何にも残んないからな。翔はどうすんだ?野球続けるのか?」


竜は春休みの間ずっと気になっていた。


翔も中学3年間ずっと野球をしていた。


2年生から、堅実な守備と持ち前の俊足でショートのポジションを獲得していた。


ちなみに竜は、1年生の秋から力強い打撃が評価されファーストでクリーンナップを任され、2年生の秋からはキャッチャーにコンバートして県内でも屈指の選手となった。


「僕はもう野球はやんないよ。身長も伸びなくなっちゃたし、きっと練習についていけないと思うし。」


翔は中学3年生の頃に身長が止まってしまって160㎝のままだ。


一方で竜はいまだ止まらず182㎝と伸びしろがありそうだ。


「そっか。またお前と野球できるもんだと思ったんだけどな。なんかやりたいことでもあんのか?」


半分は本音だが、半分は嘘だった。


翔は確かに野球は地区ではそこそこ有名な選手だったが、それ以上に頭が良かった。


それにも関わらず、近所のそこそこレベルの高い高校を選んだことに竜は疑問に感じていた。


そんなことを話しているうちに高校に着いてしまった。


星集高校である。


そこそこ名の知れた高校で、誰にでも個性という名の星の輝きを持っているという、生徒主義という高校だ。


「竜ちゃんクラス表貼ってあるよ。何組かな?」


2人とも1組から順に名前を探した。


「あっ、あった。」


先に見つけたのは竜だった。


「え、何組?」


「ほら、4組だ。また同じクラスだ。」


竜と翔は幼稚園からずっと同じクラスだった。


なにがここまでこうしているのが疑問だがまさか高校までも同じクラスとは。


「また同じクラスか。ここまで来ると笑えるね。」


「あぁ、そうだな。」


2人は顔を見るなり笑いながら、教室へと向かった。


新しいクラスはどんな感じなのか、クラスメートどんな奴がいるのか竜はがらにもなく楽しみにしていた。


中学で対戦した野球部の人がいるんじゃないのかとか期待していた。


そんな期待を込めながら竜と翔は教室のドアを開けた。

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