4.



「だけどよ、おかしくないか或人あると

「何がだい、布津ふつ

「もし怪談の話がそのまま起こっているというのならよ、十三段目を上がり切ってしまったらその場で死ぬんじゃなかったのか。十三段になった階段を何回も行き来している時点で、それはもう怪談として成立していないだろう」


 それもまた、尤もな意見であった。


「ああ、それもそうだねえ。ええと、その点に関しては――」


 と、僕が質問するまでもなく、


「その指摘は俺も認める」


 階段上の背の高い、体育会系の三年生がすぐさま回答した。


「だけどだな、何度数えてもやっぱり十三段あるんだ」


 その答えに合わせて、隣のもう片方の三年生もうんうんと頷いた。雰囲気から見受けるに、主に十三階段に関心を寄せているのは最初に答えた彼のほうだけで、他の男子たちは数合わせ的に協力させられているに過ぎない――そういう関係性が想像された。


「ちなみに、今朝数えたときはまだ十二段だった。勿論、下から数えるのと上から数えるのとで数え方を間違えているということもない」

「あ、そこは確認済みなんですね」

「当然だ! こいつらにもわざわざ付き合ってもらっているしな!」


 高圧的な態度の割に、妙なところで律儀な先輩である。怪談もブームに発展すると、ここまで人を動かすものなのかと感慨深い。



                  *



「――ところで、あんたは?」


 階段から下りてきた先輩がいぶかしげに訊ねた。


「あ、これはすみません。僕、生徒会の代理で、今回の校内での怪談話の増加について聞き込み調査をしてます、二年の暮樫くれがしと言います」

「生徒会の……?」

「はい。そのことを踏まえたうえで、お伺いしたいのですが……先輩はどうして十三階段のうわさを調べようと思ったのか――もし差し支えなければ、その切っ掛けを教えていただけないでしょうか」


 針見はりみ先輩と話したときもそうだったが、上級生にこちらから話しかけるのは毎度どうにも緊張してしまう。


「おう、別に構わんが……そうだな、俺がこの話を最初に聞いたのは、去年、部活の先輩からだったな。夜の学校で階段の十三段目を上ってしまうと、死後の世界に連れていかれるとかいう話で……。聞いたそのときは大して気にも留めていなかったんだが、こないだ、現実に怪談が十三段になっているのに遭遇してしまったっていうのをダチから聞いてな。まわりもなんだか怪談の話ばっかしてるし、いっちょ俺も自分で確かめてみようと思ったワケよ」

「なるほど……。ついでにお伺いしますが、その体験談というのはどなたから?」

「隣のクラスの奴だよ。そいつ、広報委員なんだけど、今度の新歓イベントに使うとかで階段の幅と段数を測っていたんだと。そのときにいつもと段数が違うことに気づいちまったってんだな」

「ということは、それは春休み中のことですか?」

「ああそうだよ。春休み中にそんなことがあったって、一昨日話してくれたんだ」


 つまり五筒井いづついさんとほぼ同じケースか。

 春休み中に怪異に遭遇目撃 → 休み明けに話が拡散……というルートが、またひとつ確認されたことになる。さらに、それに便乗して怪談をコミュニケーションツールに用いている事例も。



                  *



「おお、マジだな。十三段ある」


 いつのまにか先に階段を上がっていた布津が踊り場から言った。


「なっ、そうだろ! なっ!」


 嬉しそうに同意を求める件の先輩。


「おい、生徒会の――暮樫とか言ったか、あんたも調査してるのなら自分でもやってみろよ」

「ああ、はい。そうまでおっしゃるのでしたら……どれどれ」


 僕は先輩に文字通り背中を押されるかたちで階段に足を掛けた。



                  *


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