2.
何はともあれ――。
〝妖怪退治〟などと、聞こえの好い言葉で大見得を切ってはみたものの、僕がなし得る範囲などたかが知れている。強大な敵を相手にした大立ち回りの活躍はこの先もおよそ期待できそうにない。その点、あらかじめご了承願いたい。
*
さても、妖怪退治、怪異解決の物語というと世に種々パターンがあるが――、
例えば、それこそ我が妹のような退魔能力保持者を主役に据え、問答無用で悪霊を霧散させる類のヒロイックな伝奇ストーリー――、
あるいは、怪異専門の異界探偵が諸所の巷説から事件の真相に迫る推理劇――、
またあるいは、自称平凡な主人公が突如襲来した凶悪な化け物に対峙し、序盤は無力を晒すも、次第に特殊な力を手に入れていく熱血バトル展開――、
そういう型が幾つか想起されるのだろうけれども……生憎のところ、僕の場合にはどれも当てはまらない。何故なら、僕には怪異を退ける異能力もなければ卓越した推理力もなく、かと言って日常を破壊する未知の力に接してもいないからである。
え、くどい?
それは何度も聞いた?
……うん、妹にもよく言われる。
では、いったい何をするのかと問われれば、当事者たる「怪異に遭遇したと語る人物」ひとりひとりの話に耳を傾けてみる他に手段はない。
必ずしも百聞は一見に如かずんばあらず。
されど耳を信じて目を疑うにもあらず。
他者の話をよく聞き、そのうえで自分の知識に照らし合わせ、思考し、綜合し、判断する――そうしてはじめて、本質に触れることが可能となるというものだろう。
*
生徒会室を後にした僕は、その足で怪談の現場に向かわんとしていた。隣にはいまだ憤慨した態度の
そうして、さて何処から取り掛かろうかと布津と意見を言い交わしつつ歩いていたのだが、廊下を突き当たったところで、生徒の何人かが階段の上下を行ったり来たりしている場面に出くわした。
いずれも男子生徒。制服の学年バッジから察するに、二年生と三年生が混じっているようであった。四、五人で集まって、階段の踊り場まで上がっては下り、また上がっては下りを繰り返している。
しかもご丁寧に段数を口で数えながら、だ。
「よ、よし、もっかい行くぞ……」
「おう。……じゃあ、はい、いち、に、さん、し――」
無頼風の男が揃って階段の一段一段を執拗に凝視しているさまはまず異様で、見方に拠っては何かの儀式にも見えなくはなかった。雨天時の運動部が屋内練習で階段を只管上り下りするトレーニングを行っているのは何度か目にしたことがあったが、それとも違う独特な光景であった。
彼らは何をしているのか。手前にいた生徒の一人を
なんと、ここにも怪異探求の同志が――!!
怪談ブームの思わぬ波及効果である。
僕は言いようのない感動に打ち震えかけたのだが、横に立つ布津のそうじゃないだろという、しかし無言の冷めた視線を感じ、襟を正した。
*
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