同盟

 勇者が説明を終えた頃、オズワルドが意識を取り戻した。

「おれはただ、こえをかけただけなんだ……」

 虚ろな目をして遠くを見つめるオズワルドを慰めていると、ブラッドが歩み寄った。

「ごめんなさい、オズワルド。とても暗い森だったし、裏切られたばかりで、仲間以外は敵、だと思っていたの……だからその、話を最後まで聞かずに蹴り飛ばしてごめんなさい」

 ブラッドは勇者の方をちらちらと見ながら謝った。言葉は全て勇者と相談して決めたものだった。彼女が勇者に耳打ちした「怪物相手にどう謝るかわからないわ」という発言は決裂の種に成りかねなかった。

「いや、いい……あんたが本気で蹴っていたら今頃死んでいただろうから……」

 オズワルドは弱々しく呟いた。

「俺は見たことがある。あんたの蹴りが入った瞬間、衝撃に耐えきれず破裂した怪物を……」

「怖……」

 勇者がオズワルドと並んで震えていると、ブラッドが笑顔で近づいて来た。

「冗談です、ねぇ、ほんとだよ、ちょ」

 ブラッドが勇者抱き上げていると、ルイスが会話に加わった。

「それで。どうやって、あの大規模召喚を止める?」

「リリーちゃん、どうだろ」

「あのまばらな雪が特殊なものでした。恐らく、上の暗雲が魔力を帯びているのだと思われます」

「雲を吹っ飛ばせばいいんだな」

「ハヤブサのようにいうのは簡単だけど、見分けはつかないし、次の召喚のポイントもタイミングもわからない」

「今出ている大規模召喚を止めてやるのはどうだ、そうすれば、生贄が出ずに済む。」

 ルイスが言った。このままでは誰かの命が犠牲になってしまう。勇者としても賛成だったが、それではもう召喚時の雲や雪に対応できない。

「あの群れを皆殺しにすれば何か出て来るんじゃない?」

 ブラッドが手を挙げる。

「途方も無い。俺、オズワルド、ガモンを含めて、他の仲間は二十二人だ。しかも、そんな無謀な作戦に乗りたくはない」

 ルイスが首を振った。仲間はあの平原を囲むように散らばって様子を見ているらしい。

「多少の危険は覚悟しないと。いいよ、俺が囮になる」

 勇者が手を挙げる。裏方に逃げている獲物を釣るなら、それなりの餌が必要だ。向こうが最も欲しがるものは火を見るよりも明らかだろう。

「補充のための召喚を、する必要がなくなればいいんだから、俺が餌になるのが一番だよ」

 勇者の言葉にルイスは何も言わなかった。彼もそれが最適解だと思っているのだろう。今の大規模召喚を止めるのならば時間がない。勇者たちは行動に移る。

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