合流

「こういう洞窟は平気なのか」

「こう、入口が広いだろ、しかも、そんな奥まで行ってるわけじゃない。……ふう。外が見えるってのは落ち着くぜ」

「馬鹿なんじゃないの」

 勇者は大きなため息を吐き出した。あれこれ理由をつけて線引きする人間は、結局の所、どちらも平気だったりする。ハヤブサは絶対にその説が通用すると思った。

「いつか木箱で移動させてやる」

「殺す気だな?」

「仲が良いんだな」

 ルイスが口を挟む。表情を見る限り馬鹿にしている様子はない。

「これだけ長旅すればね」

「前の勇者はそんな様子ではなかった。仲間とも会話しているのか怪しいくらいだった」

「無口で、はい、いいえしか言わないらしい」

「ああ、確かにそうだった。仲間も大概だった。特に、あの女、お前たちと何故か一緒にあいつだ、あれは殺戮という概念がヒトの形をしているようだった」

 震え上がるルイスを落ち着かせようと、勇者はブラッドの事情を説明した。予想はしていたが、まるで信じようとしない。

「今のブラちゃんが、本当の姿だったと俺は思ってる」

「そうか。仲間ってのは大切なんだな」

「ルイスにはいねぇのか? そういう奴ら」

「いる。すぐに会えるさ」

 そんな話をしていると、一人の獣人が洞窟へやって来た。顔の左半分に大きな火傷の痕が見える。

「ガモン! 無事だったか」

 ルイスが駆け寄ると、ガモンと呼ばれた獣人が大事そうに抱えていた何かを降ろした。

「リリーちゃん?」

 勇者が駆け寄る。目を閉じているが顔色は悪くない。

「す、すまん。……俺が声を掛けたらその、驚いて気を失っちまったんだ」

 火傷の獣人は何度も頭を下げた。

「助けてくれたんだな、ありがとう」

 勇者とハヤブサが頭を下げ返すと、ガモンは「いや……」と畏まっていた。

「本当にすまん。もっと優しく声を掛けるべきだった」

 勇者はガモンを見る。顔は厳ついが根は優しそうだった。何より好感が持てる。

「起こすべきか悩んだんだが、俺の顔が怖くてそうなったのなら、俺が起こすべきではない、と」

「わかった、ありがとう」

 勇者は頷いてリリーを揺さぶった。しばらくすると、リリーがゆっくりと目を覚ます。

「あっ、勇者様!」

 リリーは周囲に視線を走らせた。ガモンと目が合うと彼の方から声を掛けた。

「お、驚かせて悪かった……」

「彼らは俺たちを助けてくれたんだ。大丈夫、味方だよ」

 勇者の言葉をゆっくりと飲み込み、リリーは頷いた。

「なるほど。あ、あの、先ほどはすみません……」

「い、いや、悪いのは俺だ……」

 リリーとガモンが頭をペコペコと下げ合っていると、洞窟の外から声が聞こえる。

「みんなー生きてるー?」

「ああ、ブラ」

 勇者はブラッドが引きずっている何かを見て固まった。

 完全に殺った。あれはどう見ても殺してきたに違いない。晩御飯感覚だろうか。お腹すいたから獣人殺してきたわ、的な感じたのだろうか。

 勇者は頭の中に巡る感想を口に出さないように飲み込んだ。あれが、ルイスの仲間なら交渉決裂だろう。

「オズワルド!」

 ルイスが叫ぶ。勇者は、ああ、終わりだ。と息を吐いた。

「ごめんなさい、敵だと思って蹴っ飛ばしてしまったの。多分生きてるから見てあげて」

 ブラッドがオズワルドだったものを抱えあげ洞窟の中に入れた。

「大丈夫だ。頭にコブができているが、気を失っているだけだ」

 ルイスが言う。オズワルドはまだオズワルドだった。勇者はホッと胸をなで下ろす。そして、視線でブラッドに訴えかけると、彼女は気不味そうに頭を掻いた。

「何よ、勇者。……ええ、わかってるわ。ちゃんと目が覚めたら謝るから。それより、現状を教えてくれないかしら?」

 勇者は頷き、彼らの説明をした。

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