仲間たち

 ……息が上がってきた。

 どこに? どこまで? いつまで? 皆さんは無事なのか。いくつも浮かぶ思考は現状を乗り切る足枷でしかなかった。

 リリーは魔法を使い、敵を寄せ付けないよう距離を取りながら移動していた。

 動きの鈍い怪物たちは水で足止めすれば、どうにかなる。しかし、数が多かった。

「死ねよ! 死んでるくせに!」

 声を荒げて苛立ちを抑える。早くこの群れを駆け抜けて、合流しなければ。

「喰い散らかせ!」

 リリーは水の魚を召喚し、前方の怪物たちを蹴散らしていく。穴の空いた群れをすぐに走り抜けなければならない。もうすぐだろう。

「見えた!」

 群れの終わり、吹雪に辿り着く。立ち止まるわけにも行かず、雪を蹴飛ばしながら、リリーは森の中に入った。

 ある程度走ったところで振り返ると、怪物たちの姿はなかった。リリーは立ち止まり、息を整える。止まった瞬間に毛穴が開いたのかと思うほど汗が噴き出した。

 早く、合流しなければ。

 吹雪が葉のない枝を揺らす。鬱蒼と茂る木々を前に、リリーは恐怖心を覚えていた。

 普通に怖い。暗いし、吹雪の音はするし、誰もいないし、怖い。

「おい!」

「アェッ!?」

 リリーが振り返ると、顔の半分が焼けただれた獣人が睨みつけていた。あまりの驚きにリリーは奇声を上げてひっくり返る。

「お、おい。勇者の仲間だよな、おい?」

 火傷の獣人はおろおろとリリーの周りを歩いた。

「やあ、にすべきだったか。いや、よう! だったか……」

 獣人は頭を抱えながら自己反省会を開く。この顔が怖いのは自分が一番わかっている。だからこそ、陽気に気さくに行くべきだった。しかし、言い訳をするならば吹雪の音を遮るにはいつも通りの調子で呼ぶしかなかった。

「と、とりあえず。運ぶか」

 獣人は恐る恐るリリーを抱え上げると、彼女が吹き荒れる雪に顔を傷めないよう纏っていた外套に包んだ。

 彼はルイスの仲間で、名前はガモン。しかし、その名前をリリーが聞くのは少し先だった。



 やってしまった。

 時を同じくして、ブラッドが反省会を開いていた。

 いや、仕方ない。状況が状況だった。誰もが陥る状況だったに違いない。

 それにしても。

 ブラッドは握った拳を見つめた。

 かなり弱くなってきている。相手が屍だからあっさり倒すことはできたが、それでも手応えは自分の中でかなり小さかった。

 先に進むほどに弱体化するこの体。勇者につけられたこの傷が原因なのか、ドラゴンの魔法の力なのか。

 しかし、自然と落ち着いている自分がいた。それには自身が一番驚いている。

 力こそが全てだと思っていた自分が、今の現状であってもどうにかなる、皆と一緒にいれば大丈夫。そう思えている。これが成長なのか、ただ丸くなっただけなのかはわからなかった。ただ、今の自分は好き。

「さて、と」

 目の前には自分の蹴りを喰らい、勢い良く木に叩きつけられた獣人がひっくり返っていた。

 この獣人は生きている感触だった。だが、問題はそこではない。この獣人は直前、ブラッドに声を掛けて来たのだ。

「おい、迎えにきブェ……ッ!」

 彼が木を失う直前の言葉を反芻する。「迎えに来た」? それはつまり、味方だということなのか。懐を漁ると、目印の書かれた地図のようなものを見つけた。洞窟に行けばいいらしい。

「とりあえず運ぶしかないわブラッド、やりましょう」

 自己会議で結論を出すと、ブラッドは獣人の右足を手に持ち、ずるずると引きずるように移動した。

 彼はルイスの仲間で、名前はオズワルド。しかし、その名前をブラッドが聞くのは少し先だった。

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