獲物

「俺が都合の良い生贄になるわけだな。魔王の敵代表だし」

「そうだ、あんたらを倒せばこの召喚は終わる。そう信じているのか、本当にそう取り決めがあったのか、どちらかはわからない」

「つまり、魔王の幹部があのジイさんと繋がってるのか」

 ハヤブサの問いに獣人は頷いた。

「恐らくな。今日のタイミングを見ただろう。誰かの指示としか思えない」

「なあ、あんたはどうしたいんだ? 手を貸したいのは山々だけど……」

 勇者が言う。彼は今の現状をどう打破したいのだろうか。少なくとも、こちらと同じ価値観を持って、何かに反抗しているのだろうが。

「俺は、俺たちは、立て直した時のように皆で手を取り合いたいだけだ。誰も悪くない、誰かが悪いと言うなら全員だ。俺たちはそうやって生きて行くはずなんだ」

 獣人は力を込めて言った。勇者には、後半は縋り付くような声にも聞こえた。

「とりあえず、あの大規模召喚を止める。あれを止まれば、仕掛けてきた奴も出てくるだろ」

 勇者が言うと、獣人は唸った。

「止めると言っても、どうするんだ。簡単に止められるなら俺たちが止めてる」

 たしかにな。と勇者は思った。自分たちよりも強い彼らが現状維持に従うしかないのだから、相手は手強いのかもしれない。

「まずはブラッドとリリーと合流したい」

 勇者は洞窟の入り口に寄った。あの二人ならば心配はないが、早く合流するに越したことはない。

「俺の仲間が追いかけているはずだ。もっとも、俺とは違って、目の前に現れるのは森まで逃げ切った後だろう」

 彼ほど協力的ではないのか。それとも、個人個人で事情があるのかもしれない。勇者は詮索はせずに頷いた。

「助けに来てくれた、ありがとう」

「死んじまいそうだったからな」

「なあ、名前は?」

 ハヤブサがたずねると、獣人は困ったように顔をしかめた。

「聞いてどうする?」

「呼ぶんだよ。俺はハヤブサだ、よろしく」

「あ、ああ。そうか、そうだな。……あんたやお前じゃダメか?」

「ダメじゃねぇけど、名前があるなら教えて欲しい、なぁ、勇者」

「個人の自由だと思う」

「嘘だろ」

 勇者がハヤブサを一蹴すると、獣人が笑った。

「すまない。あまりそういう文化がないんだ。名前ってのは自分が誰かを知っておくためのものだと思っていたからな。俺はルイスだ」

 ルイスは照れたように微笑んだ。

「よろしく、ルイス。奴らにどっちが獲物になるか教えてやろう」

「ああ、勇者。短い間だがよろしく頼む」

 勇者が手を差し出すと、ルイスは大きな手で優しく握り返した。

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