止まない吹雪
森を抜けると獣人は真っ直ぐ何処かへ向かっていた。勇者が尋ねると、「良い場所がある」とだけ答えた。
すぐに岩山をくり抜いた洞窟が見えた。獣人はその中に入ると、勇者たちを下ろした。洞窟内にはランプや木箱が置かれている。獣人は慣れた手つきでランプに明かりを灯す。
「ありがとう」
勇者が頭を下げると、ハヤブサも「すまねぇ、助かった」と続けた。
「……いきなり礼か。罠だったらどうする」
「あの現状を打破できたのはあんたのおかげだ」
勇者が言い切ると、獣人は息を吐いて壁に腰掛けた。
「俺があんたらを助けたのは、自分のためでもある」
獣人は勇者を見つめた。穏やかだが鋭く光っている瞳だった。
「この国がおかしなことになってるんだな。それを打破するきっかけに俺たちがなれる」
「話が早くて助かる」
「なあ、教えてくれ。誰が俺たちを嵌めたんだ」
ハヤブサが話を割った。しかし、勇者も聞きたい話題だったので制止はしなかった。獣人は少し黙った後に口を開く。
「王がいただろう。あと、あんたらみたいな姿のニンゲンが。奴らは自分たちが生き残る為に周りを犠牲にすることを選んだ」
「何があったんだ」
「勇者がこの国を悪魔王の統治から解放した後、生き残った俺たちは手を取り合って生活していた。少なくとも最初はな」
獣人は洞窟の外を眺めながら言う。勇者たちは黙って続きを待った。
「魔物が突然現れたのも、それを食い止める為にあの砦を建てたのは本当だ。俺も全力で戦った。……だが、魔物が現れた理由を突き止めてから、あいつらは変わった」
「理由がわかってるのか……?」
「補充だ。魔王軍と言えばわかりやすいか。奴らは相当のダメージを負ってる。勇者が皆殺しにして回ってるんだからな。魔王が産み出したり、魔王の魔力に当てられた怪物はほぼ消えたと言ったもいい。なくなれば補充する、その為に人を襲わせてるのがあの屍集団だ」
獣人は一息で説明すると黙った。
つまり、新しいエネルギーを補充する為に命を狩っているのだ。しかし、そこに割く人員すらいない為、使い物にならない死骸を単調な動きで使役している。
「じゃあ、ある程度、生物を襲えば消えるのか」
ハヤブサの質問に獣人は頷いた。
「ああ、あの大規模召喚はある程度エネルギーを補充すると自動的に消滅するようになっているらしい。……あいつらは生贄を出すことで解決した」
「生贄?」
勇者は顔をしかめた。物騒な話になって来た。
「国で悪事をしたものを罪人とし、処刑と称してな……。おかしな話だろ、ここはどこかの国を追い出されたどうしようもない奴らの集まりだってのに。この国は何も変わっちゃいない、この空のようにな」
獣人が言葉を切ると、外の吹雪の音が洞窟に響いた。
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