魔物の群れ

「嵌められたか!?」

 ハヤブサが叫ぶ。それを合図にしたかのように全員が臨戦態勢になる。

 光とともに溢れんばかりの怪物が現れた。大きさに差はあるが、どれも勇者より一回り大きい。幸い、リリーが直前に周りの雪を弾いたため、群れに大きな円が空いていた。

「何が一直線だ、全員俺たちを見てるぞ」

 勇者は舌打ちを鳴らした。円が徐々に小さくなっていく。まんまとやられた。誰の狙いかは分からないが、それを考えるのはここを打破してからだ。

「私から離れないで!」

 ブラッドが大声を上げた。勇者は顔を歪める。そう、強力な魔法を使いこなすリリーは大丈夫だが、自分とハヤブサは確実に足手まといになる。それが目に見えていた。固まって動くか、いや、四方を囲まれている今、それは得策ではない。奴らの狙いは一網打尽だ。ならば、抵抗するしかない。

「いや、ここは砦がある南側以外の三方に散る。俺とハヤブサは二人で動く。ブラちゃんとリリーちゃんは自分の身を守るだけでいい」

「でも」

「わかってる。俺たちは半人前だ。だから、半人前と半人前で、どうにかなるだろ、行くぞ、合流方法はまた後で考える!」

「俺たちはこっちに行こう!」

 ハヤブサがダガーを構えて北に走った。勇者もそれに続く。

「死なないでね」

「どうかご無事で!」

 二人の声を背中に受けながら、勇者とハヤブサは群れに走りこむ。

「怒ってるか、ハヤブサ」

「いや、俺たちが足手まといなのは目に見えてる。これが最善だろう」

「俺とお前ならどうにかなる」

「……ああ。腹は括ったぜ、勇者」

 ハヤブサは笑う。ここを乗り越えられないようでは魔王撃破などと言ってはいられない。

 蠢く魔物は、砦側へ向かう素ぶりなど微塵も見せず、明らかに勇者たちを狙っていた。動きは鈍いが数が多い。

「アイツをやる」

 ハヤブサはそう叫んで速度を上げる。勇者は後に続いた。恐らく最も近い怪物だろう。回りこめるほど背後に余裕がないため、ハヤブサはバックステップを取るような形で怪物の足を切りつけた。飛び退いてきたハヤブサをかわし、勇者は剣で突進する。手応えのない肉を突いた感触が手に伝わる。

 二度の攻撃を受けた怪物は後ろに倒れこむ。ブラッドの言う、死体が動いているというのはこの群れにも当てはまるようだ。怪物は痛がる様子もなく、無理に動こうとしている。

「どうする、すり抜けて突っ切るか?」

「いや。そこまでの体格差がないやつもいる。躓いたら終わりだ」

「だがよ。強引に行くしかねぇよな?」

 ハヤブサが声を荒げる。怒りではなく、焦りが声に現れていた。両脇からも怪物たちが近づき始めている。

「強引は賛成。光るぞ、目をそらせ!」

 勇者は閃光玉を地面に叩きつけた。しかし、怪物たちはビクともしない。

「勇者、効いてねぇ!」

「次だ次」

 勇者は自分と同じくらいの大きさの怪物に接近した。剣で相手の左肩を切りつける。

「盾にする!」

 勇者が叫ぶと、ハヤブサはすぐさま勇者に続き、大型の怪物の右肩に斬りかかった。両肩を攻撃された怪物は両腕をだらりと垂らしこちらを睨みつけている。

「せーので行くぞ、せーの!」

 合図と同時に勇者は剣を、ハヤブサはダガーを怪物に腹に突き刺し、そのまま押し込んだ。二人は怪物を盾に、群れを掻き分けていく。しかし、群れの密度は高く、次第に速度が落ちていく。

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