線引き

 防衛の最前線である砦に到着する。

 砦というよりも、木や岩を積み上げた巨大な壁だった。文字通り、ここが防衛線となるのだろう。砦には多くの獣人たちと戦士たちが共に作業をしていた。

 人が細かい作業をし、木や岩を一塊にすると、大柄の獣人たちがそれを砦に取り付けていく。修繕をするために人を肩車する獣人もいた。

「皆、援軍に来てくれた新しい勇者たちだ」

 王が呼び掛けると、ぞろぞろとそこに居た者たちが集まり始める。訝しげな視線を察知した王が事情を説明するとまばらに頷いていた。

「まず砦の上から、片付けられるだけ片付ける。その後は力でねじ伏せる。幸い、俺たちが皆で頑張れば倒せない敵じゃない。数も大体決まってる。だが、一進一退だ。前進はない」

 とりわけ大きな獣人が言った。勇者は、皆、言葉が上手いなと感心していた。ハヤブサが大声で反応する。

「安心してくれ、俺たちが活路を見出してみせる」

「頼んだ。奴らを召喚、もしくは転送している本体のようなものが必ずいるはずだ」

「今までの戦いでそれを見たものは?」

 ブラッドが手を挙げるように促すが、誰も応じなかった。

「奴らの大規模召喚が終わるまで上で見ていたが、始めに光った以外は何もない」

「ここらへんはリリーちゃんに任せるしかないかもな」

 勇者が言うと、リリーは大声で「は、はい!」と叫んだ。

「あらかじめ組み込まれた魔法陣の可能性もあります。この雪で隠れているだけで地面に何かあるのかもしれません」

 リリーの言葉に獣人の一人が反応する。

「現れるのは大体同じ場所だが、少しずれたりする。地面の下だとしたら少し変かもな」

「可能性の話さ。それで、奴らはいつ来るんだ?」

 勇者が話を終わらせると、獣人は砦と呼ばれる壁を指差した。

「いつもなにも。常にさ。だが、大量に来るのは決まって空を覆う黒雲が強く出たときだ。今の雲の調子だと、一、二時間か」

 獣人の言葉を聞いたブラッドは黙って壁を駆け上った。

「なるほどね。この先の雪原に、ちらほら見えるわ。なかなかしぶとそう」

「ああ。つっかえると、溜まっていくんだ。厄介だよ」

 一番大柄な獣人が上を見上げて叫んだ。ブラッドはそれを聞くと手をヒラヒラとさせて壁の向こう側へ飛んだ。

「俺たちも行こう」

 勇者が言うと、戦士たちが砦の門を開いてくれた。開いた門の先には、すでにかなり遠くにブラッドが見える。

「今はいい。だが、大規模召喚が行われたら、貴方たちは前線での戦闘には参加せず様子を見てくれませんか」

 門をくぐろうとする勇者に王が声をかけた。首を傾げる勇者に王は神妙な顔で続けた。

「区別が付かないでしょう? 戦う彼らと襲って来る奴らを見分けられますか? ……様子を見てくれませんか?」

 勇者たちは何も返せず、頷いて門を抜けた。

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