出会いはいつも
その後、勇者たちはそれぞれ獣人に抱えられながら移動していた。彼らは人一人抱えているにも関わらず、かなりの速さで走っている。
「移動手段ってこれかぁ……!」
勇者が思わず呟くと、勇者を抱えていた獣人が笑った。
「どうだ、速いだろ」
「速い速い、凄いよ」
勇者が言うと、獣人は笑っていたが、次第に神妙な顔つきになっていく。
「あんた、新しい勇者なんだよな」
「一応ね」
「……俺たちをどう思ってる?」
勇者は、前を向いて走っている獣人と目が合った気がした。その目は怯えているように見えた。
「……俺は初めて国から国へ渡り歩いて、色んな人に会った。俺はモンスターと戦い歩いたわけじゃないからかもしれないけど、あんたらは、今までの人たちと変わらないよ。新しい出会いの一つだ」
「……そうか。今までと一緒か」
「うん。外歩いてもさ、モンスターいないんだよ、今」
「らしいな、俺たちが珍しいか」
「うん」
「怖くはないか?」
「俺から言わせれば、何日も掛けてモンスター殺して回ってる先輩の方が怖いね、間違いなく」
「……あれは、怖いなんてものじゃない。剣の一振りで何もかも消し去ってしまう」
獣人の体が震えた。それは抱えられている勇者にも伝わるほどだった。彼は前の勇者を見たことがあるのだろう。刻み込まれた恐怖が体に現れている。
「見た目は、ただのちっぽけな人間だ。だが、目の前にすると山より大きな魔物に見える。……悪いな、説明が難しい」
獣人はそのまま黙っていたが、すぐに明るい調子で声を上げた。
「歓迎する! あんたみたいな人なら安心だ、少しの間になるが、よろしく頼む!」
「ああ、こちらこそ」
勇者は頷いた。
今話しているのは怪物かもしれない。しかし、出会いはいつだって新しいこととの対面でもある。それを拒絶するほどの使命は、自分にはなかった。
「ところで。やっぱりすごいな、あの女は」
獣人は目の前を走る一人の仲間を顎で示した。走り続ける獣人の肩の上に、村人から借りた、寒さ対策の重装備に身を固めたブラッドが直立している。あの場合、獣人が凄いのかブラッドの平衡感覚が凄いのかわからなかった。
「ブラちゃんなら一人で走ったほうが早いかもな」
「流石にキツイわ、雪道は慣れてないし、歩幅が違う」
ブラッドは首だけこちらに向けると笑った。勇者からしてみれば、吹雪の中、二人だけの会話が彼女の耳に届いているなんてキツイ冗談だった。やはり、一人で走らせたほうが良い気がする。色んな意味で。
「それとも、私に抱えられて移動したいってこと?」
「違います!」
勇者が大声を上げると、ブラッドは舌を出して前に向き直った。やりとりを見ていた獣人が驚いたように口を開く。
「……なあ、あの女、あんな感じだったか?」
「ブラちゃんはずっとあんな感じだけど」
「俺が前に見たときは、あんな親しげな空気は纏っていなかった。近づけば、殴る、折る、潰す、殺す。そんな女だぞ」
「まあ、やってることは変わらないかな。前より喋る相手が増えただけだよ」
勇者が言うと、獣人は顔をしかめた。
「俺らよりも化け物……いや、化け物の俺たちがこうしてお前らと話をしてるんだ、あの女も変わったっておかしくない、か」
獣人は呟くと、どこかで納得したらしく、一人で頷いていた。しばらく無言だったので、勇者が声を掛けると、我に返ったように体が揺れる。
「ああ、悪いな。見えるか? あれが、防衛線だ」
獣人は鼻を突き出すように前方を示した。
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