白銀舞う

 ブラッドの案内によって洞窟を抜けると、目の前には暴力的な白が広がった。空も地も、目の前さえも真っ白だった。

「凄いな……!」

 勇者は思わず叫んだ。大声を出さなければ掻き消されてしまうほど、吹雪の勢いが強かった。

「寒っ!」

 勇者が背負っていたハヤブサが飛び起きる。

「え、あれ? 結局キュってやられたの俺?」

「着いた、降ろすよ」

「ねぇ、直前の記憶がない。俺はどうして勇者におぶられてるの」

 勇者の背から降りたハヤブサは頭を抱えていた。リリーがそっと近づき「そういう時もあります」と優しく肩を叩いていた。

「さすがに寒いわね」

 軽装のブラッドが勇者を背後から抱き締めながら言った。勇者は、こいつ、人で暖を取ってるなと、小さく舌打ちする。しかし、

「一応、全員分の上着を買っておいたから出すよ」

 勇者は大人しく魔法陣から厚手のコートを取り出した。それを見たハヤブサが声を上げる。

「なんだよ勇者、大人しく抱きしめられてると思ったら、素直に上着まで用意するのかよ、砂漠の時は俺に何もくれなかったのに」

「いいか、今俺はブラちゃんに抱きしめられてるんだぞ、さっきのお前みたいにバキッとやられたら困るだろ」

「なに、バキッって」

 勇者は四人分の上着を取り出すと、それぞれに配った。リリーはローブを脱ぐと「ひゃああ」と寒さに驚きながら羽織り、ローブを纏った。

「想像をはるかに超える寒さでした……」

「そのローブ? っていうのかしら、便利なのね」

「はい、私の魔力に反応して外気を遮断してくれるんです」

「魔力、ねぇ、残念」

 ブラッドは肩を竦めて息を吐いた。どうやら寒さは本当に苦手のようだ。

「なあ、俺の首ちゃんと真っ直ぐになってる?」

「大丈夫だから、早く着てくれ。こっちはハヤブサがいない間にバキッも経験してるから、騒ぐのなしな」

 勇者は大きく息を吐いた。その吐息は煌めく粒となって吹雪にさらわれた。

「ああ、なんだか右に首が向かない気がしてきた」

 ハヤブサは顔をしかめてブラッドを見つめた。勇者はそれを見て、憐れむ気持ちが溢れてきた。

 ハヤブサはわかっていない。ブラッドの前でそんなことを言えばどうなるかはわかりきっている。

「あら、そう?」

 ブラッドはハヤブサの頭を掴むと右に捻った。

 ぐりん。

「ハヤブサさん!」

 白目を向いて倒れたハヤブサを見て、リリーが青ざめた。

「曲がるじゃない」

「曲げたんでしょう、ブラッドさん」

 勇者が指摘すると、ブラッドは舌を出した。勇者は己の身を守る為に「わあ、可愛い顔」とコメントした。

「もう、勇者ったら。なんだかピィちゃん、まだ具合悪いみたいだから少し休んだら行きましょう」

 ブラッドの発言に勇者は苦笑いして頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る