凍て付く風

 勇者たちは吹雪を掻き分けるように前へ進んだ。ブラッドの話によれば、洞窟を抜けて少し歩いた先に小さな村があるらしい。

「この辺りはどんなモンスターが居たんだ?」

 勇者は寒さから意識を逸らそうとブラッドへ話題を振った。

「基本的に人型ね。この辺りはゴブリンも多かったけれど、奥へ行くと寒いせいか毛むくじゃらの獣人ばかりだったわ。あとは大きいだけの鈍間の四足獣とかね」

 ブラッドはリリーを抱き締めるように歩いている。リリーは少し嬉しそうに身を任せている。

「寒いわね……。人型といっても、まともな言葉を使うようなのは居なかったわ」

「会話ができたらやりにく……いや、それはないか、山賊を血祭りにあげてた」

「世界のモンスターは魔王の魔力に影響されているのよ。そりゃあ元々いたモンスターもいたけれど、もう戻れない。魔力に支配され、道行くものを襲うから」

 ブラッドは言う。勇者は黙ってそれを聞いていた。たしかに、モンスター自体は存在していた。それは恐らく、魔王程ではない大きな力が幾度となく世界には生まれているせいだろう。勇者が力を借りた戦神が立ちはだかる巨大な力を切り拓いたように、この世界にはサイクルがある。それが今回はあまりにも大きいのだろう。

「前の勇者は見境いなかったから」

 ブラッドはふふと笑っていた。先代は、この世界の生態系そのものを破壊して進んでいるに等しい。

「最初は経験を積みたかったんだろうが、後半になりゃほとんど一撃なんだろう? じゃあ、わざわざ探し回ってまで狩るか?」

 ハヤブサは言った。勇者は趣味なのではないかと睨んでいる。費やしている時間と労力からみるに、どう考えても変態だ。

「根絶やしにしないと落ち着かないみたいだった。何があそこまで勇者を駆り立てたのかは傍にいた私にもわからなかったわ」

 ブラッドは唸った。

「……けど。前に話した、人々の期待や希望を背負うっていうのは、モンスターを倒すって重圧にもなっていたのかも」

「周りの期待に応える為に必死でモンスターを倒して回っていた」

「うん」

 ブラッドは勇者の言葉に頷いた。

 村から村へ、移動するたびに勇者は崇められたのだろう。怪物を倒し、村を救ってくれた英雄。彼ならきっと世界の暗雲を晴らしてくれるに違いない。そんな期待が積もっていけば、いずれ壊れてしまうようにも思える。

「さあ、着いたわ。ここが最初の村、どうかしらね、人がいるのかどうか」

 ブラッドは立ち止まり、目の前を指差した。その先には白銀の隙間から集落がうっすらと見える。

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