お邪魔しました

 勇者らが裏口に戻ると、ライラの父親であるシュラが待っていた。

「表は人が集まってるぞ、音もなく店のある木に穴が空き、煙が上がっていたからな」

「音もなく、ね。さすがだな」

 勇者は呟いた。結界に近いものを張り巡らせていたに違いない。

「どうだったんだ」

「勝ったよ、少し、休みたいんだけれど」

「とりあえずはうちに来てくれ、ライラも心配している」

 シュラはそう言って、勇者からブラッドを引き剥がし担ぎ上げた。

「まあ」

 ブラッドが嬉しそうな声を上げる。

「最近の私の乙女化、凄くない?」

「大丈夫、出会った時から変わってないよ」

「まあ!」

 照れるブラッドを尻目に、ハヤブサが勇者の耳元で「今の悪口だろ」と囁いた。勇者は「本人が喜んでるからいいんだ」と返した。

「それにしても。勇者様たちはどうやって、モンスターの巣窟を? あの魔王の知り合いの方はモンスターハウスに送り込んだと言ってました」

 リリーは不思議そうにたずねた。

「前の勇者が……って言ってたから、送られたモンスターハウスが空き家だっんじゃねぇのか」

 ハヤブサは上手いこと言っただろ、と目を輝かせる。

「半分当たりだな。居たには居たよ」

 勇者はハヤブサを見る。

「なあ、俺たちが会ったゲル状のモンスター覚えてるか?」

「モンスター? 俺たち、モンスターになんか会ったか?」

「だよなあ。うん、そうだよな」

 勇者は頷いた。

「何かあったのか?」

「いや、後で話すよ。そんなに元気じゃない」

 身体中が痛い。ある程度回復はしたが、気力というのは簡単には戻らない。

「あ、あ、じゃあ、私が何か話しますね!」

 リリーがあわあわと口を開く。

「無理しなくていいよ」

「なあ、リリーちゃん、どうして戦ってると口が悪くなるんだ」

 気を遣った勇者の言葉を遮るようにハヤブサがたずねた。本人が気にしていたらどうするつもりなんだ。と、勇者は心で呟いた。

「戦う意志は気持ちからですから。明確な殺意をきちんと出さないと」

「明確な殺意」

 ハヤブサが繰り返す。

「倒すぞ、打ち負かすぞ。って気持ちだけではやはり踏ん張りが効きませんから、殺すことへの執着を徹底しています」

「殺すことへの執着」

 勇者が繰り返す。

「つまり、武器を持って気が大きくなる、とかじゃあなくて、単純に気持ち切り替えてるってことか?」

 ハヤブサの問いにリリーは「はい!」と元気よく答える。

「つまり根性でしょ。いいじゃない。単純な殺る殺らないの線引きは大きいわ」

 ブラッドはうんうんと頷いて言った。

「そういうもんか?」

「殺すって思って殴れば首がねじ飛ぶわ」

「納得しました」

 勇者とハヤブサが声を揃える。

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