木こりさん

「ここでお終いにしましょうよ!」

 大きな声に全員が振り向くと、ハヤブサが倒した男が操り人形のような体勢で起き上がっていた。目を見開いているが視点は定まっておらず、蛇が上に浮かんでいるため、蛇に操られた男状態だ。

「ボスをご馳走になって退散しますよ!」

「やめとけ」

 蛇は大口を開けてバニーに突進する。バニーは近くにいた勇者たちを魔力で吹き飛ばした。

 バニーに食らいついた蛇だったが、彼女から放たれる禍々しい魔力に侵食されていく。蛇は弾かれたように彼女から離れ、満身創痍の男に返っていく。

「避けろよ、死ぬぞ。……どうした? もう死んでるか?」

 バニーの言葉に男は答えず、弾き返った蛇に飲み込まれた。男を飲み込んだ蛇はそのまま壁に突進し、塗料のように弾けて跡形もなく消えた。

 勇者たちが再びバニーの近くに寄ると、

「自動防衛魔法って感じ? どうも魔王は私に過保護のようでね。私にトドメを刺さなかったのは正解だね」

 バニーは笑い、そのまま目を閉じた。勇者が何度か声を掛けたが、返事はない。しかし、胸が上下していたので眠り込んだらしい。沈黙が生まれ、それを破るようにハヤブサが呟いた。

「勝ちなのか?」

「俺たちが明確な勝ち負けのある戦いをした記憶があるか? いつも、どうにかなるようにしかなってないだろ」

 勇者の返答にハヤブサはハハッと笑い返した。そして続ける。

「聞いてくれよ、俺は魔術師にめちゃくちゃ強いことがわかった」

「じゃあなんで魔術王との戦いの時にいないんだよ、お前は」

「本当に凄かったんですよ!」

 興奮気味に語るリリーを見たハヤブサは不思議なものを見るような顔をする。

「リリーちゃんって戦ってる時、雰囲気変わるよね?」

「それ知らないのお前だけだからな」

「前回の戦いを引き合いに出すのやめない?」

「ねえ、さっさと退散しない? これじゃあまるで私達が悪い奴ら」

 ブラッドはふらふらと立ち上がる。勇者は穴の空いた天井を見た。月を雲が隠し、ちょうど鳥が飛んでいた。何故か鳥に見られているような気持ちになり、勇者は目を逸らす。

「ここを離れるか」

 ハヤブサに声を掛けられ勇者は頷く。勇者はブラッドの肩を支え、部屋を出た。他の二人もそれ続く。

 せっかく悪と戦ったのに、最後は逃げるように立ち去らなければならない。勇者は心の中で苦笑していた。

 まったく。

「世界を救う勇者なのにな」

 勇者が言うと、その場の全員が笑った。

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