モンスターハウス

 モンスターハウス。この世界にはモンスターが一つの空間にひしめき合い共存する不思議な生態系がある。様々な要因によって一箇所に集まった多くのモンスター。それらが三すくみのようはバランスの中で争うことなく存在している。もしもそこに侵入する者がいるならば、すぐさま調和は崩壊し、地獄が口を開くだろう。


 勇者は地面に落ちると、倒れこむブラッドに近づいた。

 ここは? 奴は?

 辺りは薄暗く、狭い洞窟のようだった。何処かに飛ばされたらしい。勇者は斬り付けられた傷の痛みに顔を歪ませた。出血が酷く、それを見てさらに血の気が引いた。

「……無事か?」

「今のところは……」

「何か気配は」

「感じるわ。たくさん、ね」

 ブラッドは力なく微笑む。

 勇者は周囲を見回した。暗さに目が慣れてきた。奥の方に何かが動いているのが見える。勇者は呼吸を整えて周りの音を拾う。

「……スル?」

「……ッテルゾ」

 奥で会話をしているようだった。

 バニーの話を信じるのであれば、ここはモンスターが犇めき合う洞窟だろう。勇者の父の知り合いには、モンスターの密集地帯に赴き、商売に使えるものを手に入れる猛者もいた。しかし、その手の手練れでさえ、モンスターハウスと化した空間には足を踏み入れないという。

 洞窟が狭くなっているような感覚。勇者は辺りを観察した。大勢のモンスターが二人を囲むようにし、その輪が小さくなっているのだ。

「囲まれてる」

「ええ、死ぬまでに何体殺せるかしら」

 群の中から二体のモンスターが前に出た。人と変わらぬ大きさの骸骨と、トカゲのような男だった。

「オイ、何処カラ来タ?」

 骸骨が目を赤く光らせた。

「ドウヤラ、死ニタイラシイナ」

 トカゲは棍棒を手に不気味に微笑んだ。その瞬間だった。一閃、トカゲの棍棒が破裂する。

「!?、??、???」

 トカゲは消えた棍棒とこちらを何度も見比べていた。

「おかしいわね。右眼を狙ったはずなんだけど」

 ブラッドは首を傾げた。ブラッドはナイフを投げたようだ。バニーに攻撃された際

手を握りながら勇者が念のために渡していたものだ。

 怪物の輪が大きくなっていく。

「ア、ア、アノ女ダ! 勇者ノ仲間ダ!」

「ウワアアアアア!」

「俺タチヲ殺シニ戻ッテキタンダ!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 怪物たちは思い思いに絶望の言葉を吐き出した。

「阿鼻叫喚ってやつかな」

 苦笑いする勇者と骸骨の目が合う。

「セメテ、コイツダケデモ!」

 骸骨はブラッドに恐怖の視線を向けながら勇者ににじり寄る。

「やっぱりそうなるか」

「待テ! マッテ! ソノ人ダイジョブ!」

 勇者と骸骨の間にゲル状の何かが割り込んだ。

「コノ人ハ、助ケテクレタ!」

 ゲル状の何かは、ウネウネと動きながらどちらを向いているかもわからない状態で叫んでいた。勇者の記憶にはない。全く覚えていない。

「ボウヤガ言ウナラ……」

 骸骨は納得したように下がっていく。勇者はぽかんと口を開けてやりとりを眺めていた。状況がわからないが、どこかで恩を売れていたらしい。

「怪我シテル! 手当テ!」

 ゲル状の呼び掛けにより、薬草が運ばれてくる。勇者たちは現状を把握できないまま治療されていく。ゲル状は興奮気味に勇者に語りかけてくる。

「仲間ハ皆、勇者ニ殺サレタ。ソレデ一人ボッチニナッタボクヲ、見逃シテクレタ!」

「ええっと、まあ、うん。無事でなによりだよ」

 勇者は曖昧に頷き、首を傾げるばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る