木こりは笑う4
バニーは男とブラッドを見て、明らかに苛立っていた。
「今の男もなかなかの手練れなんだろうけど、ブラッドは単純な喧嘩なら負けないから」
勇者は転がったモンスターの首を見ながら、これから先の彼女とのスキンシップについて話し合わなければと決意した。明日は我が身かもしれない。
「仕方ない。これだけは使いたくなかった」
バニーが手をかざすと、彼女の眼前に赤い魔法陣が浮き出た。
「これは魔王から授かった魔法の一つでね。召喚魔法と言うよりは、空間転移魔法さ。この魔法陣はある場所と繋がっている」
魔法陣はまるで雷雲のように赤い光をバチバチと纏っていた。
「この世界のどこにも属さない辺境の地。地獄の谷を知ってるか? そこには人間が介入出来ないほどの凶悪なモンスターが山のようにいる。その谷の空気を吸うだけで、人間は死んでしまうかもしれない。これは、その地獄の蓋さ」
バニーは顔を歪めて微笑んだ。
「ここのモンスターどもは強過ぎてね。魔王から借り受けた魔力を持ってしても数体を従えることしか出来なかった。久しく使っていないから、その数体の制御すら怪しい……だが、お前らを殺した後に考えればいいさ。最悪、この倉庫ごと谷へ送り返せばいい」
勇者は体に力が入っていく。父から聞いたことがある。吹雪の国の奥深く、地図にもない渓谷には神話と見紛う程の怪物が何体もいるという。
「勇者は良い商品になりそうだったが、こちらとしては自分の命が惜しい。背に腹はかえられない」
バニーは魔法陣から手を離した。自立したそれは禍々しい音を立てている。
「さあ、終わりだ!」
バニーは高らかに叫んだ。魔法陣はバチバチと音を鳴らしている。
バチバチバチバチバチバチバチバチ。
魔法陣からは何も出てこなかった。
「?」
バニーと勇者は顔を見合わせる。なぜか二人とも、同じような顔をしていた。
「何故だ?」
「いや、知らないけど」
勇者はブラッドを見た。そういえば、先程からやけに大人しい。ブラッドは何か考え事をしているような仕草を見せる。
「もしかして、地獄の谷って、吹雪の国の奥の死の山を越えたところにある?」
「そうだ」
「ああ、あそこね。はいはい、行ったわ」
「え?」
バニーは固まった。
「前の勇者と一緒に行ったわ。三日くらい掛かったかしら、全部倒すのに。たしかに骨のある怪物ばかりだったから楽しかった。ナイトとどちらが多く倒せるか勝負したんだけど、結局勇者が半分以上倒しちゃったから勝負にならなかったの」
ブラッドは懐かしそうに笑った。
「馬鹿な……」
バニーは信じられないと首を振った。
勇者はそうだった。と一人納得していた。最近は多少まともな旅ができていたせいで忘れていたが、そもそもが二周目。残り滓の冒険だった。モンスターを殺すことに人生をかけている前勇者が、そんな谷を見逃すわけがなかった。
「いや、でも……」
「今は近くの村の人達が流れて、花を育てているわ」
魔法陣から爽やかな風が吹いた。
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