木こりは笑う3


 ブラッドは思わず女を見た。勇者が何かに吹き飛ばされたのだ。恐らく魔力の類いだろう。勇者を援護できるか少し不安になった。

「おい、よそ見するな」

 デカブツが殴り掛かってくる。ブラッドは大振りの腕をかわし、脇腹に蹴りを叩き込んだ。デカブツはよろめいてこちらを睨み付ける。

 ブラッドは不思議に思っていた。初撃の男への蹴りは、首を千切ろうと思い振り抜いた。しかし、首はくっついている。やはり、自身が弱くなってるのだろうか。

「へへへ、お前、強いな」

 デカブツは下品に笑っていた。ブラッドは何も答えず、肩と首を回して調子を確かめた。

 調子は良い。動きも悪くない。ただ純粋に攻撃力が落ちているようだ。

 ブラッドは素早く飛び上がると、その勢いのまま、デカブツに踵を落とした。男は顔から地面に叩きつけられる。頭蓋骨を潰すイメージだったが、どうやら相手は石頭のようだ。

「俺、タフだぜ」

 倒れたと思ったデカブツはブラッドの足を掴んだ。そして立ち上がると、片手でブラッドを放り投げる。

「何がタフ? 化けの皮剥がれちゃってるわ、モンスターさん」

 ブラッドは着地すると、頬を指差した。デカブツの顔の皮膚は半分以上剥がれ、ぎょろりとした目玉が見えた。額にはツノのようなものも生えている。

「俺はどっちでもいい。バニーが隠せって」

 デカブツはツノを撫でながら言った。

「モンスターを用心棒にするとはね」

「たくさん殺したぞ、お前も殺す」

「それはどうかしら」

 デカブツは素早くブラッドに接近した。

 あら、意外と速いのね。先程までの動きとはあまりにも違うため、油断して腹部を殴られてしまった。なかなか良い一撃だったため、受身に集中することにする。

「直撃だ」

 デカブツは振り抜いた腕を高く上げて喜んだ。ブラッドは受身を取ってそのまま突進する。

「当たったら勝ちなら、私が先ね」

 ブラッドは、高く上がっている腕に飛び付き、そのまま可動域を超える方向へ折り曲げた。

「直撃だぞ!」

「腹筋には自信があるの」

 ダラリと垂れた腕を押さえるデカブツの首目掛けて、ブラッドは蹴りを入れる。やはり首は千切れない。なんだか、もどかしかった。

 ブラッドは二回、三回と蹴りを入れる。脳しんとうを起こしているのか、反応がなくなったが、デカブツはガタイが良いため、なかなか倒れなかった。

 丁度良いわ。とブラッドは微笑む。たまには気合い入れてみるのもいいわね。

「ふんッ!」

 七回目の蹴りで望み通りの感触が足に伝わった。蹴り抜いた頭は多くの壁に叩き付けられる。

「ストーン?」

 女がこちらを見てきたので、ブラッドは首のない怪物を蹴り倒した。

「モンスターだったから、容赦無くやらせてもらったわ。お待たせ、勇者」

 ブラッドが声を掛けると、吹き飛ばされていた勇者は体勢を整え、バニーを睨みつけていた。

「同じ調子でもう一個の首も頼むよ」

 勇者は引いた笑いを見せながら言った。





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