賑わう店
勇者は一通り店を回ると、リリーを探しに魔導書関連の棚がある場所へ向かった。ここには特産物だけではなく、様々な国の魔法を取り扱った書物が揃えられていた。
「何か欲しいものあった?」
「あ、勇者様! あの、はい、この魔導書、私の国では古い型のものしかなくて……」
リリーは数冊の分厚い本を抱えていた。
「今、どの本にするか悩んでいたんです。どれも少し値が張るので……」
「足りない分は俺が出すから、買いに行こう」
「ええっ! いやでも!」
勇者はあたふたするリリーから、本を全て取り上げると、店の者を捕まえて会計をしに行く。
「その分、頑張ってくれればそれでいいよ」
勇者は笑った。彼女を外へ出したのは自分だ。これくらいのことは当然だろう。
「はい! ありがとうございます!」
リリーは嬉しそうに買った本を抱え直した。
「俺たちもご飯食べに行こうか」
「そうですね! お二人を探します」
リリーはそう言って、目を閉じた。しかし、すぐに首を傾げる。
「探知できません……」
「この店のせいじゃないか? これだけ広ければ、強盗のような輩も出てくるだろうから、防犯としてなにか力が作用しているのかも」
勇者は言った。実際、店のあちこちにある死角には見たことのない魔法陣が描かれていた。
「大丈夫だよ、どうせすぐ見つかるし、見つかるよ」
勇者とリリーが食事のできる三階へ上がると、予想通りすぐにブラッドが駆け寄って来た。広々とした空間にはたくさんの並べられたテーブル席がある。それらを囲むように飲食店が並んでいる。かなりの広さだが、多くの客が座り、食事や商品を食べながら休息している。この店にいれば、大抵のことは済ませることができるのだろう。
「駄目ね。こういうところ、すぐ飽きちゃう」
ブラッドが苦笑いした。そして大きく伸びをして、リリーから本を受け取りテーブルに置いた。
「リリーちゃん、あっちに美味しそうなものがあったから一緒に見に行かない?」
「ぜひ!」
二人を見送った勇者はハヤブサと席に着く。周りの席には家族連れも多く、和やかな空気が流れている。小さな子供が肉料理を幸せそうに食べているのが見えた。
「どうだったんだよ」
「活気があっていいな。この店自体がまるで市場だよ。それにこの人気ぶりだけあって品揃えはかなりのものだよ。大袈裟じゃなく、欲しいものは大抵手に入りそうだ」
「へぇ」
「あとは変な女に絡まれたよ、ここの代表だとか言ってたけど、モンスターの肉を自慢げに紹介してたな」
ハヤブサは顔をしかめた。ハヤブサの皿には魚や果物を食べた痕が残っている。
「何も知らずに来てたら最悪だったな、勇者」
「ああ。今も最悪だけどな」
「ちげぇねえな。まあ、全部のモノがそうとは限らねぇけど」
「まあな。知らなくていいこともある」
勇者は周りの賑やかな世界を眺めながら息を吐いた。
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