同業者

「ヤヤ、これはこれは、二代目勇者殿では?」

 店を回っていると、黒い服に身を固めた若い女が声をかけて来た。遠くの異国で作られた、スーツと呼ばれる黒い服装はこの森では浮いていた。

「ええ、まあ。よくご存知で」

「客商売ですので、有名人は抑えているのですヨ。先代の勇者殿もこの店を使ってくださりましてネ」

 胡散臭く感じてしまうほど、おかしなトーンの話し方をする女だった。勇者は曖昧に相槌を打つ。勇者の反応の悪さに気付いた女は、ああ、と声を上げた。

「スミマセン。名乗るを忘れてました、有名人を見るとすぐにアガッてしまいましてネ。ワタクシ、ここの代表の、バニー・アンです。バニーとお呼びくださいマセ」

「はあ、お若いのに代表ですか。それにしても凄いですね、ここは。何度か支店にはお世話になっていたんですが、ここまで取り揃えているとは思いませんでした」

 勇者は素直に感想を言った。父とここへ来たら楽しいだろうなと考えてすらいた。

「ありがとうございマス。ここでは武器以外も揃っているので、モンスターのいない冒険を潤してくれることでショウ!」

 バニーは大袈裟に何度も頷いていた。何もかもが胡散臭く見えるが、敵意は全く感じられない。商売相手だとしたら、物さえよければ好感すらもてるだろう。実際に父がここに商品を売っているのがいい証拠だった。

「モンスターがいなくなって、大変でしょう。知り合いに商いをしている者が多いのですが、はじめはかなり苦戦したと聞きました」

「ハイ。やはりワタクシ達も冒険をする旅人を相手に商売してましたので、それはもう、大変でシタ。けれど、商人というのは強いですネ。変な意地を見せずにすぐに切り替えられる。何故なら」

「出遅れたら負け、ですからね」

「その通りデス! ヤー、流石、商人仲間が多いだけあって、わかってらっしゃる。世界がたとえ止まろうとも、人とお金と生活は動き続けますからネ」

 バニーは両手を広げ、店内を歩く客達を示した。

「あんなにモンスターの被害に怯えていたのに、今では逆に、希少なモンスターを商品として扱える世界デス。何があるかわかりませんネ」

 彼女はある一角を指差した。そこには「食用モンスター」と書かれていた。

「へえ、モンスターの肉ね。このご時勢、どうやって?」

「企業秘密デス」

 彼女は微笑んでいたが、勇者は笑わなかった。その秘密をこちらは知っている。勇者は胸の辺りに沸き上がる不快感を鎮めた。

「マァ、お気持ちはわかりマス。外に全くいないモンスターがここにいたら、勇者としてはムム、となることでショウ。ですが、そこはどうか。我々の頑張りに免じて」

「ええ、それはもう、もちろん」

「ありがとうございマス!」

 バニーの笑顔の色が少し変わったな。勇者はそう察知した。勇者は適当に話を切り上げると、バニーに礼を言ってその場を離れた。

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