森と狩人3
「あいつは右向かいの枝の上だ」
ハヤブサは一羽の鳥を静かに呼び寄せながら言った。小鳥ではなく、空を何匹も飛んでいる鳥の内の一羽だった。
勇者はハヤブサに示してもらったナイトの方角に向けて矢を放った。その矢はすぐにナイトの矢に落とされる。それどころか、ナイトの放った矢は勢いを殺すことなく勇者に飛んでくる。勇者はその場から離れ、ナイトを探した。
「あんたみたいに剣で弾くほど、慣れてないんでね」
「簡単ですよ。慣れれば、ね」
挑発するようにナイトは木の陰から姿を現した。勇者は肩の痛みに苛つきながらも次の矢を放つ。矢は真っ直ぐナイトに飛んでいく。ナイトは短剣を構え、矢を斬り伏せた。
その瞬間、矢は爆発し、ナイトは後ろに吹き飛んだ。しかし、すぐに受け身を取り体勢を整えた。勇者を舌打ちを鳴らす。
わかってはいたが、こうも効かないか。
「馬鹿にし過ぎた罰ですかね」
「次は倍の火薬にしてやるよ」
「今のが暴発を抑えるためのギリギリの量なんでしょう? 私も使います」
ナイトは短剣を勇者に向けて投げた。まるで矢のように飛ぶ短剣は勇者の弓を破壊した。それだけではなく、先ほど肩に刺さった矢に短剣が当たり、さらなる激痛が勇者を襲う。
「嘘だろ!」
勇者は倒れこむ。肩が焼けるような鋭い痛みに蝕まれている。全て狙って短剣を投げたのなら、やはり目の前の男はブラッドと同じ化け物の類だ。
「次は何ですか?」
のたうち回る勇者に向けて、ナイトが弓を構え直した時、大量の鳥が彼を襲った。小さな黒い竜巻のようにナイトの周りを飛び回る。
「なるほど。先ほどの煙でしょうか」
ナイトは自身の足元に魔法陣を作り、強い風を発生させた。鳥達は竜巻によって吹き飛ばされていく。
「鳥葬にでもするつもりでしたか?」
再び弓を構え直したナイトは勇者に矢を放った。矢は勇者の右足の太腿に突き刺さる。
「性格が悪い」
勇者は足を抑えながらナイトを睨み付けた。
「一瞬で終わらせるのは勇者という存在に失礼だと思っています。決して遊んでいるわけではありませんよ」
ナイトは無表情で勇者を眺めていた。その視線の冷たさに勇者は鳥肌が立った。それは紛れもなく、ただ相手を殺す目だった。
「こっちだぁ!」
ハヤブサは叫びながらナイトに駆け寄った。ナイトがそちらに意識を向けた時、地面から水の魚が跳ねた。
「ほう」
ナイトが地面を蹴り飛び上がり水の魚をかわすと、ハヤブサは駆け寄る速度を落とさずにナイトに斬りかかった。しかし、ナイトはそのまま体を捻り、ハヤブサを蹴り飛ばす。かわされた魚が方向を変えると、ナイトは魔力を込めた矢でそれを射抜いた。
「先ほどの少女ですか。この勢いの強さからして、直接狙ってきていますね、ドラゴン程では無いにしろ、良い筋をしている。たしか、試練の洞窟にて魔術王相手に戦い続けた少女ですよね。立派です」
「あんたはあれか、解説しないと死んじゃう騎士道でも歩いてるのか」
勇者は無理矢理笑ったが、ナイトは冷めた目のまま辺りを見回した。勇者はナイトの矢筒には目をやる。あと七本。先は長いか、それとも……。
ナイトは勇者でもハヤブサでも無い方向に二度矢を放つ。魔力が込められた矢は新たに現れたリリーの水魔法を土に還した。
「初撃こそ、戦局を左右するもの。よく見なければなりませ……」
まるで、ナイトの言葉を遮るように空から丸太のような物が飛んでくる。恐らくは周囲に溢れる巨大な木の枝だ。飛んできたというよりは投擲されたという正しい。弾丸のような速さで飛んできた丸太はナイトに直撃した。投げ手は一人しかいなかった。
「あの野蛮女には常識が通じませんね」
少し後ろに吹っ飛ばされたものの、上手く衝撃を緩和したらしく、ナイト自身のダメージは見込めなかった。
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