森と狩人2
睨み合いの中、勇者は装備を確認していた。背中の剣、魔法陣の中で使えそうな物は斧、小手、閃光玉、火薬、爆弾、鎖、弓矢、ナイフ数本。全てを出そうとすれば魔力が追いつかない。持久戦ならば考えを巡らせる必要があった。
「俺も考えてはみるが、期待するなよ」
勇者がハヤブサに装備を伝えると、ハヤブサが弱々しく呟いた。大丈夫、期待はしていない。という言葉は飲み込んだ。自分自身の考えすら期待できなかったからだ。
「奴は弓使いだろ、なら、矢がなくなるまでどうにか」
「俺の魔法陣を知ってるだろ。矢なんていくらでも出せる。……けど、たしかに、矢筒に装填する時間は狙えるかもしれないな」
勇者らの隠れる木に矢が刺さる。矢から魔法陣が展開され、嫌な臭いが漂ってくる。
「爆発する!」
勇者の叫びと同時に矢を受けた木が爆発する。飛び退いた勇者の肩に痛みが走る。肩には矢が刺さっていた。
爆発した木は大きな音を立てて倒れ始める。そして、隣接する大木に支えられるように停止した。
「くそっ」
勇者は転がるように移動し、別の木に隠れた。
「何もしないというのはやめましょう。これは狩りではありません。巣穴の獲物を待ち続けるようなつまらない時間は過ごしたくない」
ナイトの声が響く。しかし、場所まではわからない。
「おっと」
金属がぶつかる音が聞こえた。勇者が音のする方を見ると、ハヤブサがナイトに斬りかかっていた。ナイトは短剣でハヤブサのダガーを受け流していた。
「弓兵に近接を挑むというのは実に分かりやすい。鎧相手にダガーというのも面白い。しかし、私はあのブラッドの元仲間のなんですよ、近接くらいできなければ旅はできない」
べらべらと喋り続けているが、動きに無駄はなくハヤブサは追い込まれていく。
「実戦慣れしてませんね」
ハヤブサの大振りの攻撃をかわし、ナイトは蹴りを入れた。腹部に直撃したハヤブサは蹲ってしまう。
肩の矢は戦いに支障はない。勇者は弓を構え、矢を放つが、ナイトはそれを短剣で弾いた。ハヤブサはその隙をつき、煙玉のようなものを破裂させ、退避する。
「連携は良いですね。私たちにはなかったものだ」
ナイトは笑っている。一方、逃げたハヤブサは素早く勇者の元へ走り寄った。ナイトの攻撃が効いたようで顔に脂汗を浮かべて息を切らせている。
「勇者、お前、矢が!」
「痛い」
勇者は矢を抜こうとするが、深く刺さっており、痛みが増すだけだった。諦めて、ハヤブサと協力して矢を短く折る。矢に触れるだけで激痛が走るが、こんなものを刺したまま戦うのは嫌だった。
「あれは煙幕?」
「も、兼ねてるけどよ。あれはマーキングだ。簡単な指示で鳥達に攻撃させられる……期待はできないけどな」
ハヤブサは顔を歪めたまま言った。勇者は考えを巡らせた。
「試す価値はある」
「何かわかったか?」
ハヤブサの問いに勇者は苦笑いした。
「あの騎士様は俺たちをじわじわ殺すつもりらしい。飛び回っていた人さらいたちの急所を射抜いた癖に俺の肩を狙ってる」
騎士の癖に悪趣味だ。勇者はそう心の中で吐き捨てた。勇者は矢と火薬を取り出した。
「上手いこといくことを願おう」
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