森と狩人4

 さらに次は、ナイト目掛けて槍が飛んできた。槍はナイト手前の地面に刺さる。勇者が地面の槍に目を奪われていると、ナイトの真上からリザードが飛び掛かっていた。ナイトは地面に倒され、鎧の音が大きく響いた。

「事情はわからないが、状況はわかった」

 リザードはナイトの上から飛び退き、槍を引き抜いた。

「あの場所は、仲間に任せてきた」

 勇者を抱え起こしながらリザードは微笑んだ。

「ありがとう」

「いやなに。まさかあれが人さらいだとは言わないでくれよ」

「大丈夫。別件だから」

 勇者の言葉を聞き、リザードはナイトに構えた。

「ナイト殿。まさかこうして再会することになるとは思いませんでしたよ」

「リザード殿。なるほど、どうりで私が不意を突かれるわけです」

 ナイトは立ち上がると穏やかな表情を見せた。

「弟さんは元気ですか」

「……死んだよ、人さらいのせいでな」

「なんと……」

 ナイトは驚いた表情を見せる。しかし、そこに隙はなく、あくまで戦闘と会話を切り離しているに過ぎなかった。

「ナイト殿。事情を聞く時間は?」

「そこの彼を殺した後でよければいくらでも」

「なら、貴方を倒して聞くしかない」

 リザードは勢い良く踏み込むと、ナイトの間合いに入った。ナイトは素早くリザードの槍を掴み、睨み合った。

「正攻法で挑むのは不正解ですよ」

 ナイトは槍を掴んだまま、リザードを蹴り上げる。直撃したリザードだったが、槍は離さなかった。ナイトはさらにそのまま、二度、三度と蹴りを入れていく。

「あれから更に強くなりしたから」

 不敵に笑うナイトの後ろからハヤブサが斬りかかる。それを見越したようにナイトは槍を振り回し、リザードとハヤブサをぶつけ合った。遠くに投げ飛ばされた二人に向けて、ナイトは素早く矢を射り、それぞれの肩に刺さる。

 あと三本。勇者はナイトの矢筒を睨んだ。早く終わってくれと心から願った。

「もしや勇者殿。先程から私の矢筒に夢中のようですが、再装填の準備を狙っているのでしょうか」

 そう言ってナイトは飛び上がると近くの大木の枝に乗った。そこから勇者に矢を構えていく。

「この矢筒の底には魔法陣がありましてね。空になれば自動的に矢が補填されます。常に補填されるものもあるのですが、数を把握しておきたくてね」

「ほんと、よく喋るやつだな。勇者が無口だから必死に盛り上げていたのか?」

 勇者の悪態には答えず、ナイトは強く矢を引いた。勇者は続けた。

「良い矢だな。この矢は遠くまで狙えるけど、風に影響されやすい。けど、あんたの腕ならそれも心配ない」

「目利きが得意なのですか。弓の腕を褒められたことはありますが、矢を褒められたのは初めてです」

「家業なものでね。俺も持ってるよ、この矢。他にもたくさん取り揃えております」

「ははは、出会う場所が違えばなんとやらですね。なるほど、綺麗な構えだとは思いましたが、商人でしたか」

 ナイトは頷いていた。そして、矢の先は勇者日は向けられた。

「残り三本。最後の一本で貴方を射抜きましょう。試すようなことをしてすみませんでした。彼の後を追う者と言われ、つい突っ掛かってしまったようです」

「経験も積めない可哀想な勇者だっただろ?」

「いいえ。ただ、背負うものの大きさが違っただけですよ」

 ナイトは矢を放つ。

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