罠の先

「お前がさっきの罠を作った奴だな」

 勇者が声を掛ける。男はよく見ると体を震わせていた。

「はぁ……はぁ、そ、そうだ……オレこそが……ゴホッ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ、オレこそガハッ……は、は、はぁ……ひゅー……」

 男はぷるぷるしながら、こちらを鬼の形相で眺めている。

「なんて馬鹿なことを……おか、おかげ、魔力が持っていかれた……はぁ……はぁ……」

 男は耐えきれず膝をついた。肩で呼吸をし、呻き声のようなものを吐き出している。

「相当効いたみたいだな」

 勇者は笑った。

「何を……どう思ったら、その、発想になるんだ!」

 男は目に涙を浮かべながら叫んだ。

「お前一人か?」

 リザードは槍を男に向けて凄んだ。男は息を整えている。

「ここは本来、オレ以外が居ていい場所じゃない」

 男は立ち上がると、目の前の魔法陣を踏みつけた。

 魔法陣が赤く光ると、そこから噴水広場に現れた時と似た大きな怪物が現れる。怪物は男を守るように立ち塞がった。

「どうやら、貴様らはただの迷子ではないらしい」

「この人さらいが……!」

 リザードが人さらいと口にすると、男は笑った。

「なるほど、なるほどなあ。彼らとはたしかに仲間さ、ただ、今やオレこそが中心だ」

「てめえがボスか?」

 ハヤブサが男を睨み付ける。その瞳には複雑な陰が入り込んで居た。自身の過去を見つめるように、しかし、飲み込まれないよう、制している。

「言い方は色々だ。まあ、そうだな、せっかくだ。ここまで来た褒美に、オレの計画を教えてやろう」

 男は含み笑いを浮かべながら言った。

「計画?」

 リザードは槍を構えたまま聞き返した。

「ああ、そうだ。オレの素晴らしい計画を、貴様らにっ……」

 男は言葉を途中で切り、後方へ飛んで行く。倒れ込んだ男の左肩には矢が突き刺さっている。

「口封じか! 一体どこから!」

 リザードが辺りを見回すと、自分のすぐ後ろに弓を構えた勇者が立っているのが見えた。

「えっ」

「なんであいつの話をだらだら聞かないといけないんだ。時間稼ぎかもしれないだろうし」

 勇者は次の矢を構えた。こういう時にベラベラと喋り出す奴は危ないと決まっている。商いをしていた時も、厄介な強盗ほど、よく喋って時間を稼いでいた。

「お前、勇者なんじゃないのか」

 リザードが不思議そうな顔で勇者を眺めていた。勇者は首を傾げる。

「見られるのは結果だけでしょ? それに見てくれ、あのデカブツ、出したはいいが操る魔力は戻ってないらしい」

 勇者の言葉通り、怪物は置物のように身動きひとつなかった。さらに勇者は、矢に悶絶する男を指差した。

「話を聞いてもいいが、それは縛り上げてからだ」

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