溢れる罠

 三人の男は落下する。そして、それを追いかけるように怪物の群れ、もはや塊が落下する。

 もしもこれが瞬間的に全員が動くのであれば、次第に壊すべき床は怪物で埋もれてしまっていた。しかし、この罠の性質上、落下した先には常に綺麗な床が見えていた。

 勇者は何度も斧を振るい、床を破壊して行く。その度に怪物は十体増えていく。斧を持つ手が震え出すと、ハヤブサが代わった。

「三人で俺の槍を掴もう!」

 リザードが叫び、勇者とハヤブサは「その手があったか!」と同時に叫んだ。リザードが床目掛けて構えた槍に二人もしがみつく。

 槍は勢いよく床を貫き、速度を殺さずに次の床を貫く。三人はまるで底なしの穴に落ちているかのように落下し続けた。

「あとどれくらいだろうな!」

 地面を睨みながらリザードが吠えた。その言葉に応えようと後ろを振り向いたハヤブサが情けない声を出した。

「もう滅茶苦茶だぞ! あの怪物たち!」

 勇者もちらと後ろを振り返る。そこにはどれがそれぞれの足だかわからないほどになっている怪物たちの塊が見えた。自分たちの後ろを地面の塊が落下してきているようだった。

「お、少し様子がおかしくなってきた!」

 リザードが声を上げる。

「変な光がちらつき始めたぞ!」

 言われると、たしかに床を壊す度に、ハヤブサが怪物を斬り伏せた時に出た光のようなものが漏れ始めている。

「魔力がぶれ始めてるな。こんな馬鹿みたいな作りにするからだ!」

 勇者はざまあ見ろと内心叫んだ。まだどんな奴が作ったかもわからないが、こちらが正攻法で進んでくると思い込んでいる間抜けなのは間違いない。大方、前勇者が目の前の怪物を殲滅していく戦いをしていたため、その対策としたのだろう。人をさらう連中に正攻法で挑むほど、自分はお人好しでは無い。

「なんか、バチバチ聞こえてきたぞ!」

 ハヤブサが叫ぶ。そろそろこの結界魔法の許容量を超えてきたのだろう。

「違う景色になったら臨戦態勢だ、行くぞ!」

 バチンッ!

 大きな音を立てて、勇者たちを囲んでいた世界が弾けるように消え去った。薄暗い広い空間に落下する。

「終わったようだな!」

 リザードは空中で態勢を整え、槍を持っているにも関わらず、勇者とハヤブサを抱えて着地した。

 薄暗い空間は、至る所に魔法陣が浮かび上がっており、不気味な明るさを生み出していた。そして、中央にある一際大きな魔法陣の前に男が立っている。

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