モンスターのいない世界

「モンスターのいない世界。それは実に平和だ。だがしかし、もはやこの世界にモンスターという存在はなくてはならない存在なのだ」

 男は調子を取り戻し、高らかに語り出した。

「あいつメンタル強いな」

 ハヤブサは蓑虫のように縛られた男を見て言った。

「モンスターの為に武器があり、モンスターを倒すことを生業とする者がおり、そして、それらが世界を回して行く。だが、忌まわしき勇者によってそれは破壊された」

 男はまるで自分が縛られているのを忘れているかのように強気な口調だった。

「この真上を見たか? 武器が廃れ、町が廃れた。まるで水を使い過ぎて作物が育たなくなったようだ」

「だが、お前たちはモンスターを使って人をさらっているじゃないか。あれはちゃんと血肉があったぞ」

 リザードが槍を男の眼前に向けた。しかし、男は怯むことなく笑っている。

「オレが協力しているのはある人さらい集団。だが、奴らの本職はモンスターを生け捕りにすることだったのさ。人間よりよっぽど高く売れたからな。だが、奴らも武器屋と同じで廃れたのさ。平和になった今、人間も思うように売れなくなった」

「モンスターのついでに人をさらっていたのか、勇者、もういい、早くみんなを探そう」

「まあ聞け。奴らの商売が躓いた時に、声をかけたのがオレさ。モンスターが居なくなってしまったのなら、作ればいい!」

 男は嬉しそうに叫んだ。

「希少なモンスターを作り出し、それを売り捌く。奴らの商売は息を吹き返し、オレはオレの研究の素晴らしさを裏の世界の奴らに教えてやれる。俺は金に興味がないんでね、互いにとって最高の関係性さ」

「モンスターを作る……? どういう話だ?」

 ハヤブサが聞き返すと、男は鼻を鳴らした。

「そのままの意味だ。ただ、オレの魔術はちょっと手間がかかる。材料が入手し辛いんだ、わかるだろ? 言っている意味が」

 男の言葉に三人は息を飲んだ。吐き気のような、怒りのような感情が体内を暴れ回る。三人の沈黙を見て、男は満足げに頷いた。

「そうだよ。オレの魔術は人間をモンスターに変えるんだ。そこに立ってる怪物も、元はこの町の住人だよ」

「てめえ!」

 ハヤブサが怒鳴ると同時にリザードが男を蹴り飛ばした。縛られた男は勢いよく転がっていく。

「がはっ……はは、ははは、さらって来た人間をモンスターに変えて売り捌く! お前らが収穫した果実を飲み物にして露店に並べてるのと同じだ!」

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