便利な移動手段

 翼を広げ空を震わせて飛ぶ翼竜。

 多くの旅人が空を駆けるその姿に憧れるが、翼竜は温厚だが気位が高く、人を乗せることは滅多にない。

 翼竜が許すのは余程の絆を築き上げた友か、絶対的な強者である。


「これで一気に山を下れるわ」

 ブラッドは上機嫌だった。勇者たちは大人しくなった翼竜の背に乗り、空から山を下っている。

「俺や勇者にとって久々のモンスターだったのにな」

「運び屋代わりだ」

 勇者は苦笑いする。馬車を引き、人を運ぶ仕事があるが、ブラッドにとってはそれに近い認識なのかもしれない。

「どうして襲って来たんでしょうか」

 翼竜の背を撫でながら、リリーは首を傾げた。

「たしかに。モンスターのほぼいない環境でわざわざ出て来て攻撃するのはどうしてなんだ」

 勇者の言葉にリリーは大きく頷いた。勇者はいつかのゲル状のモンスターを思い出す。家族は皆死に絶え、隠れるように生き長らえていた。

「ブラちゃん、話せないの?」

「話せないわ。私はビーストテイマーだけど、命令を相手が聞いてくれるから無理に意思疎通する必要がないの。そんなの、戦いの中じゃ無意味だから」

 ブラッドは涼しい顔をして答えた。それを聞いていたハヤブサは翼竜の首に捕まり顔を近づけた。

「え、ピィちゃん、話せるの?」

「さあ、俺たちほとんどモンスターに会ったことがないからな」

 勇者は首を振るしかなかった。ハヤブサは鳥を呼び鳥と話しているところしか見たことがない。だが、先日の亀のことを考えると多くの種類と対話ができるのかもしれない。

「なんとなくわかったよ」

 ハヤブサは神妙な顔つきでこちらに向き直った。

「俺たちの用事と一緒だ。人さらいの連中に子供を連れて行かれたらしい。それで、あの山に来る奴らに片っ端から攻撃しているんだとよ」

 ハヤブサの言葉に同調するように翼竜は悲しげな声を上げた。

「一緒にこいつの子供も探してやろうぜ」

 ハヤブサの言葉に全員が頷いた。

「それじゃあ、残念ね」

「ブラちゃん?」

「山から下りたらこの子、食べようと思ってたんだけど……諦めるわ」

 翼竜が震えた。ついでに勇者とハヤブサも震えた。



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