港の町

 港町は様々な海からやってくる船によって常に賑わっている。旅人たちは目に触れたことのない奇特な品々に心を奪われる。

 多くの人種、生物、商品が行き交うこの町は独自の発展を遂げ形成されている。

 国と呼ぶほどの規模や統率はない。しかし、ただの町とは呼べない存在があった。


「懐かしいな、何度か来たよ、ここ」

 勇者は笑顔を見せた。父の手伝いでこの港には数度、足を運んだことがある。回数が数えるほどなのは、ここまで来る為にモンスターのいる海域を抜けなければならなかったからだ。

「賑わってるわね」

 逃げるように飛び去るドラゴンからようやく視線を離したブラッドが言った。

「皆さん、明るいですね。楽しい雰囲気がこちらまで伝わって来ます」

 リリーは周りの露店にきょろきょろと視線を向けながら言った。

「けど、魔王はまだいるからな。変な感じだ。俺がいた村みたいな」

 ハヤブサの言葉に勇者も頷いた。港町の賑わいはオロチが消え観光地となっていたハヤブサの村に似た空気を感じた。

「やあ、あんたら、ここは初めてかい? このご時世で翼竜に乗ってくるとは凄いなぁ」

 勇者たちに気がついた露店の男が手を振って来た。そして勇者の顔を見て驚いた顔をする。

「あれ、君は勇者の村のとこの?」

「もしかして弓矢の?」

 勇者は男の顔に見覚えがあった。父と仲の良い武器屋の男だった。中でも弓と矢を主に扱い、燃える矢、凍る矢等、派手な武器をよく勇者に見せてくれていた。

「まさか、あの話は本当だったのか? 二代目?」

「まあ、そんなところかな。話すと長くなるんだ」

 勇者は仲間たちに父の知り合いだと紹介し、男に成り行きを話した。男は父から話を聞いていたようで、港町の酒場に行く奴らなら大抵知ってるよ、と笑っていた。

「それで、そこの皆さん方が魔王を倒す仲間ってわけだな。弓矢を使う子はいるかい? 残ってるものがあったら譲ってもいい」

「ちゃんと買うよ」

「いや、いいんだ。もう、売り物じゃない」

 男は両手を広げた。店に並ぶものは弓矢ではなく、果物や鉱石だった。

「武器屋はもうやめたんだ」

 男は恥ずかしそうに頭を掻いた。勇者は海から帰って来た父が口癖のように吐き出した言葉を思い出した。

「もう武器は売れないからな」

 男は父と同じようなことを言った。

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