野生のモンスター
宿屋を切り抜けしばらく進むと、ハヤブサが立ち止まった。
「どうした? ハヤブサ」
「いや、このままじゃ駄目だろう!」
「いきなりなんだよ、お腹空いたのか? ほら、さっきのサンド」
勇者が野菜サンドを差し出すと、ハヤブサはキッと睨みつけサンドに噛り付いた。
「モンスター倒さなきゃ駄目だろう! 俺らこのまま何の経験値も得られないまま冒険してもいいのかよ!」
ハヤブサは必死な顔で叫びながらサンドを食べていた。勇者は黙って聞いた。
「俺たちは魔王倒すんだろう! 何だこの観光感! 城に着く頃には一回り成長してなきゃ駄目だろう、俺たちはよぉ!」
ハヤブサはサンドを食べ終えた。勇者はゆっくりと口を開く。
「ハヤブサ、お前の言いたいことはわかった」
勇者はそう言うと、ゆっくりと深呼吸した。
「だったらモンスター連れこい! いないんだよ! どこにも!」
「探せよ!」
「時間の無駄なんだよ!」
「やってみなきゃわかんねぇだろう!」
「やってみろ!」
勇者が鬼気迫る表情で怒鳴ると、ハヤブサは「見てろよ」と吐き捨てた。そして、思い切り指笛を鳴らした。
すると、空から数羽の鳥が飛んできた。
「なんだ、その鳥」
「俺は動物使いでもあるんだよ」
「何その後出し」
舌打ちする勇者を無視し、ハヤブサは鳥たちに索敵の協力を求めた。
「ただ走り回るだけだと思ったか? 洞窟とかじゃなきゃ俺は有能なんだよ、すぐに知らせが来る」
ハヤブサは動物と簡単なコミュケーションが取れるという。それは訓練したものではなく、疾風の国の使える技術らしい。村の近くの鳥たちは仲が良く、細かい指示もできると胸を張った。
勇者が時間をかけて野菜サンドを食べていると鳥たちが戻ってきた。知らせを聞いたハヤブサは驚きを隠せないでいる。
「いないんだろ?」
「そんなわけない……何かの間違いだ……」
落胆するハヤブサを見ながら勇者はため息をついた。
「いいか? 前の勇者は、俺の村からお前の村までの間のモンスターですら狩りつくしてるんだぞ。右も左もわからない奴が、右も左も斬り続けたんだぞ? そんなモンスター狂が城までの道をすんなり通ると思うか。草の根かき分けてまで殺して回るね」
勇者が冷静に言うと、ハヤブサは小さく首を振った。勇者はそれを見て心の中で頷いた。
ハヤブサの気持ちもわかる。だが、気持ちだけではこの世界は回っていないのだ。前の勇者の強い気持ちと常軌を逸した行動力でモンスターを消し去り、世界は止まってしまったのだ。
「そんなの、本当に勇者かよ」
「絶対に負けるわけにはいかないからな。それか、モンスターに恨みでもあったのかもしれない」
落胆するハヤブサの元に一羽の鳥が戻ってくる。
「なに!」
ハヤブサは驚きと喜びの混じった声を上げた。
「西の林で見つけたらしい!」
「本当か!」
「ここから近い、行くぞ!」
二人が林を捜索すると、草陰から音がした。そばにはゲル状の痕跡が見えた。
勇者は剣で草むらを斬り分けた。
「イヤァァ」
ゲル状の物体が悲鳴をあげる。顔はないが、どこからか声が出ている。
「助ケテ! 許シテ!」
「え、喋るの?」
「戦う前から謝られてるけど、どうすりゃいいんだ」
勇者とハヤブサは怯え震えるゲル状の物体に動揺した。敵意むき出しで襲って来ない相手とはどう戦えばいいのか。戦って良いのか。
「一人か?」
「ミンナ死ンダ! 昔、ユーシャニ殺サレタ! 降参シテモ駄目ダタ!」
ゲル状の物体はブルブルと震えていた。
「ハヤブサ、行こう……流石にこれは無理だ」
「……だな」
二人は武器をしまうと道に戻ることにした。
「アリガトウアリガトウ」
「変な奴に見つかるなよ」
勇者はため息を吐いた。いろいろ考えたが、ハヤブサの独り言でまとまった。
「複雑だわ」
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