快適空間

 砦へはすぐにたどり着いた。途中大きな川があったが、前勇者の活躍によって橋が架けられており、難なく渡ることができた。橋を管理している者が言うには、「勇者がモンスターによって壊された橋を、近くの林に連れ去られた職人たちを助けることで復活させた」らしい。無論、モンスターは見ていない。

 砦の入口は国の兵士が数人で見張りをし、一般人の侵入は禁止されていた。勇者らが近づくと、兵士は「話は聞いています」と頭を下げた。

「どうぞ。……一応、気をつけてください。中は我々も入らないのです。先代の勇者様との約束になっておりますので」

 兵士はそう言いながら砦の中に勇者らを通した。


 国民を守るはずの砦は、魔物によって奪われてしまった。単純な作りであるにもかかわらず、一度入れば二度とは出てこれないと感じてしまうほどに、中の空気は淀んでいた。まるで砦全体が魔物。訪れた旅人たちは、自ら魔物の体内に飛び込んでいくのだった。


「前回みてぇな、勝てないくらい強くて放置されてるモンスターとかいるんじゃねぇの」

「どうだろうな。ここまで来るのにかなりのモンスターを殺して回ったはずだ。それくらい倒せてるかもしれない」

「けどよ、ほら、勇者は兵士たちにここに入んなって言ってんだぞ」

 二人は、綺麗で澄み切った砦を探索していた。禍々しさなどは一切なく、国王の城の一部かと思うほどに綺麗だった。至る所に魔力の込められた石が置かれ、照明、空調、ともに完璧な設備だった。

「なあ勇者、俺ここで暮らせる」

「こんな快適空間、お前にはもったいないだろ」

「誰も使わないほうがもったいねぇよ。あ、おい、宝箱だ!」

 二人は途中、いくつかの宝箱を見つけるも中は空だった。ハヤブサは空箱を蹴飛ばして嘆いた。

「俺たちって、宝箱とかも残りカスってことだよな」

「二周目だからな」

「やっと会えたモンスターも、可哀想な生き残りだったし……前の勇者はどんだけ暴れたんだよ……」

 ハヤブサは欠伸をした。勇者は舌打ちを鳴らす。

「俺たちは時間を無駄にしてる気がする」

「勇者の言葉じゃねぇな」

 オオオオオオオオオオオオオオオオオ。

「なんだ?」

 二人は声を揃える。

 砦の奥から地響きのような音が響いてきた。風が抜けるよりも重い音は、二人の鼓膜を激しく震わせた。

「モンスターだ」

 耳を塞いでいた勇者は目を光らせ剣を抜いた。ハヤブサもダガーを抜き構える。

「けど勇者、砦の怪物は倒されたはずだろう」

「じゃあ、今の明らかに怪物の鳴き声ですって音はなんだよ、行くぞ」

 二人は奥に向かって駆け出した。

 走りながら勇者は考えていた。今ここで砦の怪物と対峙したとして、自分たちは勝てるのだろうか。いくら強敵の骸骨を倒したからといって砦の怪物に匹敵する力があるとは思えない。しかし、引き返したところで、強くなることはできない。

「ここで死ぬかもしれないな」

 勇者は小さく声を漏らした。

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