大地の国王
「よくぞ来てくれた、勇者よ」
白髪に王冠、赤いマントの国王が玉座に座っている。勇者は父から聞いた「ぱっと見て偉いってわかる」という言葉を思い出していた。
「あの村の商人の子か。父には何度か会ったことがある」
「とりあえずは、前の勇者が通った道を辿ります。少しでも魔王や勇者の情報を得たいので」
勇者は言った。国王は頷く。
「うむ。それが良い。このまま北に行き、魔王の部下がいた砦に向かうと良い。その先に砂塵の国がある」
「はい」
「本当は色々と手助けしてやりたいのだが、魔王の攻撃によって破壊された町の修復に全力を尽くしていてな」
国王は小さく頭を下げた。
「別に構いませんよ。今のところ特に困ってませんから」
「今日はこの町で一番の宿に泊まってくれ。話を通しておこう」
「ありがとうございます」
勇者は頭を下げ、続けた。
「前の勇者はどのような者でしたか?」
国王は懐かしむような表情を浮かべた。そして何度も頷きながら口を開く。
「年は今のお前と変わらなかった。だが、まとう雰囲気がまるで違った。幾千の戦いを乗り越えた兵士のような、鬼気迫るものを瞳の奥に隠しておった。基本的には『はい』、『いいえ』しか話さない無口な男だったな」
勇者は黙って話を聞いていた。ここに来るまでに、恐らく本当に幾千の戦いを乗り越えて来たのだろう。モンスターを狩り尽くしながら。おかげでこちらは冒険というより、ただのハイキングである。
「なあ、王様、金とか装備とかくれねぇの?」
ハヤブサが声を上げた。国王が眉をひそめたので勇者は「下僕です」と答えた。
「俺らは世界を救いに行くんだぜ? だったらそれくらいいいだろ?」
「前の勇者はそんなこと言わなかったぞ」
国王は笑いもせずに返した。こちらを見る目から感じるものは、勇者への労いではなく、空気中に舞う埃を煩うようなものだった。
「前の勇者は、『はい』とだけ応えて魔王を倒しに行ったぞ? モンスターもいない今、何故、前の勇者より金をかけなければならない?」
国王は真顔で言い切った。勇者は、殴りかかりそうなハヤブサを「もう年だから」となだめた。
「家族への報酬だけはお願いしますよ」
勇者が国王に向かって言葉を投げると、先ほどの落ちついた表情を見せる。
「それは当然だ。安心してくれ」
勇者は深く頭を下げた。そして、宿屋の名前を聞き、城を出ることにした。王室を出る間際、国王は思い出したように立ち上がり、「さあ! 行くがよい! 勇者よ!」と、声高らかに叫んだ。二人は早足だったため、その言葉を聞き終える前に廊下に出る。
「なんだよ、あの国王!」
ハヤブサは城の前でわざと大きな声を出した。
「多分だけど、お前をゴミだと思ってる」
勇者は真面目な顔で言うと、ハヤブサは獣のような唸り声を出した。
「痛い目に合わせてやる」
「やめろ、処刑されたいのか」
「いいや、処刑するのは俺だ……革命だよ」
「お前の頭の中がな」
興奮するハヤブサを落ち着かせながら、勇者は商業地区の宿屋へと向かった。
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